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どの業界に属しているかにかかわらず、すべての企業がチーム体制を利用している。自発的な作業チーム、製品設計チーム、営業アカウント担当チーム、部門間提携チーム、業務プロセス再設計チームなど、名を挙げればきりがない。おそらく、経営トップ層にも必ずチームを自称するグループは存在するだろう。
だが、どこかの企業に出向いて、そこの社員に「役員レベルのチーム」についてたずねてみるといい。即座に返ってくる反応は、意味ありげな苦笑いと、「ああ、あれは"本当の"チームなんかじゃないですね…」といった主旨のコメントだろう。優良企業においてさえ、いわゆるトップ・チームが「リアル・チーム」として機能することは稀である。実際、惰性で活動するチームのノウハウと経験は、企業ヒエラルキーの最上層のトップとして持つべきパワーと、見定めるべきフォーカスを失わせるのである。トップ層のグループにチームという名称を付けただけで、チームができ上がるわけではない。
トップ層にチーム体制を敷くというアイデアは、相変わらず魅力的ではある。社外にも社内にも、わが社の[トップ・チーム」という言い方をするCEO(最高経営責任者)がかなりいる。新任のCEOは、自分の理想のチームをトップ層に構築するものだ。彼が必要とするサポートを期待通りにしてくれるチームが理想なのである。新聞・雑誌などの企業ページ担当の記者たちはこうした行為を、おきまりの見方でしかとらえない。大企業のCEOが、先頭に立って企業を引っ張るためにトップ・チームを構築するのだ、と。
しかし、「トップ・チーム」という言葉は、ひどく間違った使われ方をしており、チームが実際に何を達成できるのか、チームを機能させるには何が必要か、という2点があいまいにされている。言葉の使い方は重要である。私たちが無節操な言葉の使い方をすれば、その思考や行動も無節操になる。「リアル・チーム」が潜在的なパフォーマンスを実現しようとするならば、明確な規範に従わなければならない。
パフォーマンスも重要である。少し前のことだが、参画、権限委譲、細やかな感性といった「チームの価値」を絶賛する経営の権威が大勢登場し、企業の世界を混乱させた。この結果、一時期パフォーマンスが軽視され、多くの企業ではいまだに軽視されたままである。「チームを基本とする組織構成」は、社内のあちこちに代わり映えのしないチームが新たにつくられる結果を招くと考える人から、嫌悪されないまでも、危険な考え方だと受け取られがちだった。ところがいま、経営が順調な企業では、パフォーマンスという概念がチーム活動の中心に据えられている。そして、チームが市場の近くに位置すればするほど、常にパフォーマンスに重点を置くことが容易になる。それは、何よりも、顧客と競争相手がチームの本能的な感覚を刺激するからである。しかし、役員たちは経営中枢部への階段を上っていくにつれ、惰性のチームではけっして生み出せない、「リアル・チーム」だからこそ生み出せる共同作業による成果の存在を見失ってしまう。
ここで厳密に定義しておきたい。「リアル・チーム」とは、「共通の目的」と「パフォーマンス目標」、そして「相互にアカウンタビリティ(説明責任)を負うアプローチ」にコミットした、互いを補い合う少人数の人間の集合である。この定義に用いた言葉は、いずれも、私がかつて「チームの基本的規範」と名づけた規範を構成する言葉である。組織のどの層に位置しようと、あるグループが「リアル・チーム」にのみ達成可能な特別な成果を手に入れようとするならば、この規範がきわめて重要になる。
間違いなく、多くの上級役員やCEOが、トップ・チームを構築する際にフラストレーションを感じている。よりチームらしい活動に努めているのに成果がまったく上がらない、というケースがあまりにも多いからである。また、トップ・チームがチームとしてまったく効果的に機能していないことが社員にも知られている。このことは、トップ層の役員自身も気づいている。
私の話は、トップ・チームのことでフラストレーションを感じてきたCEOたちの慰めになるかもしれない。実際、トップ層にいる役員たちを無理矢理チームにまとめ上げようとすれば、容易でないのは当たり前であろう。より重要なのは、それが無駄な努力に終わる可能性もある点だ。しかし、条件さえ整えば、トップ層におけるチーム体制が、最大限のパフォーマンスを達成するカギとなりうるのも確かである。優れたリーダーシップの持ち主は、チーム体制で対処すべき機会と非チーム体制で対処すべき機会とを識別し、その結果に即して行動する能力を備えている。(囲み「チーム・パフォーマンスの妨げとなる迷信」参照)。
チーム・パフォーマンスの妨げとなる迷信
今日の経営トップ層の間で、トップ・チームの重要性と潜在的価値に関して、いくつかのことが狂信的に信じられている。そして皮肉なことに、まさにこの迷信が、彼らの目指すチーム・パフォーマンスの障害となっている。
トップ層のチームワークがチーム・パフォーマンスにつながる
この考えに従うと、「4C」と呼ばれるコミユニケーション、コ・オペレーション(協力)、コラボレーション(共働)、コンプロマイズ(妥協)にもっと注意を払わなければならなくなる。
現実には、チームワークとチーム・パフォーマンスとは別ものである。チームワークは広範な協力と支援行動を意味し、チームワークのチームとは重点を限定した作業単位を指す。チームワークばかりに注意を払う上級役員のトップ・チームは、「リアル・チーム」としてのパフォーマンスの達成に必要な規範を、いつどこで採用すべきかを見極められないだろう。メンバー相互のコミュニケーション能力と支援能力は向上できるかもしれないが、この規範を採用しないことにはチーム・パフォーマンスは手に入らないのである。
トップ・チームは、コンセンサスの確立により多くの時間を費やすべきである
この迷信は、時間の共有がチーム・パフォーマンスにつながり、コンセンサスによって下される決定は個人の決定より優れているとの前提に立っている。また、コンセンサスの確立が対立緩和と同義であり、対立が少ないほどチームらしい行動が増えるという考え方である。
現実は、大半の役員には余分な時間はなく、コンセンサスの確立のための苦労は彼らにとっては実に無益なことなのだ。実は、たいていの決定は、共同で下すより個人が下したほうが優れている。さらに、コンセンサスの確立のために時間を共有することと、共同でリアル・ワーク(真の作業、実体的作業)にあたることは同じではない。何より重要なのは、「リアル・チーム」は対立を回避せず、対立を活用する点である。そして、経営トップ層における対立を回避することは不可能でもある。
トップ層の役員が集まったときは、必ずチームとして機能すべきである
経営トップが取り組むべき作業が常にチーム活動の機会に相当するというのは、誤った思い込みである。
実は、トップ層の役員間でみられる多くの相互関係は、「リアル・チーム」として活動する機会にはならないのだ。単独リーダーが統率すべき状況にチーム行動を導入しようとすれば、多くの時間を無駄にすることになるだろう。特に、共同作業による成果の価値を特定しにくいとき、あるいはそれほど価値がなさそうなとき、非チーム的な活動のほうが迅速で有効であるケースが少なくない。
なぜ、トップ層には非チーム的な行動が多く見られるのか
あらゆる種類の企業の経営トップ層に、典型的な行動パターンがあることはよく知られており、このパターンは広く定着している。たとえば、CEOが直属の部下たちを、最高執行委員会といった形態のグループのメンバーに任命するパターンである。
最高執行委員会の主な目的は、戦略的優先順位の決定、業務執行基準の実施、企業方針の確立、経営に携わる人材の開発であり、メンバーは自社の方向性、使命、方針を決める。このグループは、少なくとも週1回、業務執行関連事項の協議を目的に会議を開くほか、メンバーは重要な戦略や方針に関する事柄について話し合うための定例会議も開く。CEOはこうした会議の議長を務め、議題を決め、決定事項に対する最高執行委員会の支援を取り付ける。前もって議題が通知されているため、それ以外の問題にはごくわずかな時間しか割けない。つまり、この最高執行委員会は唯一のリーダーの下、効率的かつ効果的なワーキング・グループとして機能する。最高執行委員会が、委員会そのものや付属の特別サブ・ワーキング・グループに、チームの基本的規範を適用することはまずない。



