倉橋 ハピカンダッシュボードの設計において最も重視したのは、単に使いやすいだけでなく、従業員の方々の「心を動かす」ものにするということでした。そのために、プロジェクトをリードした当社メンバーが丸亀製麺の店舗で、店長をはじめとする多くの人たちにインタビューさせていただきました。
ダッシュボードというと経営管理ツールのイメージが強いですが、ハピカンダッシュボードは数値やグラフを単に羅列するのではなく、毎日見るのが楽しくなるようなデザインやアニメーションを備えています。サービスや商品に対するお客様の喜びの声や感動体験のヒントとなるコメントも見ることができます。この仕組みが、従業員の方々の行動変容を促し、ハピカン繁盛サイクルの循環を促進する機能を果たすことを目指しています。
粟田 従業員にとっては、日々の行動結果を感動スコアや繁盛スコアとして確認できることで、成長実感や新たな目標が生まれます。ですから、ハピカンダッシュボードは、フィロソフィーとサイエンスをつなぐ「接着剤」として機能するものだと考えています。また、全国の店舗の取り組みが共有されるので、店舗同士の交流を生むきっかけにもなると期待しています。
日本発の「データ×心的資本」モデルを世界へ
倉橋 現場の内発的動機を最大化するために、従来の店長制度を刷新し、「ハピカンオフィサー制度」を導入されるのも、大きな決断だと思います。
粟田 これまでの店長は、最もお客様に近い場所にいながら、事務作業や数値管理といったバックオフィス業務に多くの時間を取られていました。そこで、こうした業務は副店長や他のメンバーに移管し、店舗のトップである「ハピカンオフィサー」は、仲間のハピネスと店独自の感動体験の創造に専念してもらうことにしました。
倉橋 具体的にどのような役割を期待されているのでしょうか。
粟田 彼らに求めるのは、従業員の心に火を点けることです。従業員一人ひとりの内発的動機を理解し、それを引き出し、そしてお客様の体験価値を高めてほしい。たとえば、仲間の誕生日に予算を使ってケーキを贈り、「おめでとう」と伝える。そういった小さな積み重ねが、従業員のハピネスと内発的動機を高めます。ハピカンオフィサーには、店舗でのハピカン繁盛サイクルの実現を期待しています。
報酬体系も抜本的に見直しました。ハピカン経営の実践レベルに応じて、最大で2000万円の年収を目指せる制度設計にしています。これは、現場で自己実現を果たし、プロフェッショナルとしてのキャリアを築く道を開くためでもあります。
ハピカンオフィサー制度は2025年12月から、「ハピカンキャプテン」という呼称で丸亀製麺での導入を開始しました。丸亀製麺では3年間で300人のハピカンキャプテンを任命する計画です。その他のブランドでも順次、新制度を展開していきます。
倉橋 心的資本経営の始動を発表してから、まだほんの数カ月ですが、手応えはいかがですか。
粟田 社内的には2024年6月から心的資本経営の浸透を進めており、お客様からのおほめの言葉は24.5%増加(※1)、従業員の離職率が12.9%低下(※2)するなど、効果はすでに表れ始めています。
※1 トリドールグループに寄せられたおほめの言葉の件数を2023年度と2024年度で比較
※2 トリドールグループ従業員の離職率を2023年度と2024年度で比較
心的資本経営は、縮小しているマーケットに風穴を空け、これまで手が届かなかったお客様に対しても、新たな感動体験を提供する可能性を広げます。最終的には、私たちが世界的な外食ブランドに成長するエンジンになると大きな期待を抱いています。
私は、外食は最も身近なレジャーであり、そこにはエンタテインメント性が欠かせないと思っています。これは機械やテクノロジーでは代替できません。人がいきいきと働くことによってこそ、外食産業の価値は際立ちます。
テクノロジーと人が対立するのではなく、共存・協働しながら、いかに人の内発的動機を高めていけるか。これに尽きると思います。心的資本経営は、遠回りに見えるかもしれませんが、テクノロジーの進化で時に人が疎外感を抱くこともある現代において、働く人にもお客様にも「光」のような存在になれる。その突破口を開くものだと確信しています。
倉橋 御社の取り組みは、日本企業が持つ本来の強みである「現場力」や「おもてなしの心」を、データとテクノロジーで再構築するモデルケースだといえます。
データは世界の共通言語ですから、ハピカン繁盛サイクルが可視化され、データで説明可能になることで、海外の企業や投資家にも理解され、日本初のデータ活用モデルとして広がっていく可能性があります。日本企業にとって希望の光となることを期待しています。
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