世界中の企業が、情報主導型の競争に適応せんとして自己変革を図っている。いまや、無形資産(intangible assets)を開発する能力は、有形資産(physical assets)を投資・管理する能力よりも、競争優位を左右する決定的な要素となっている。

 我々はこのような変化に鑑み、数年前に「バランス・スコアカード」と名づけたコンセプトを紹介した。バランス・スコアカードは、次の3つの視点によって伝統的な財務指標を補うものである。3つの視点とは、①顧客、②社内ビジネス・プロセス、③学習と成長である(図1)。

 バランス・スコアカードを利用することによって、財務上の成果を追いかける一方、将来の成長に必要とされるケイパビリティを構築したり、無形資産の獲得状況をモニターしたりできる。バランス・スコアカードは、けっして財務指標を代替するものではなく、財務指標を追加補助するものなのである。

 最近では、当初の予想を超えてバランス・スコアカードを活用している企業がいくつか出現している。これらの企業は、「バランス・スコアカードは新しい戦略的マネジメント・システムの基礎となるだけの価値がある」ことを発見した。

 このように着目してバランス・スコアカードを利用すれば、「長期戦略と短期的な行動をいかに関連づけるか」という従来のマネジメント・システムではうまい解答が出せなかった問題を解決することが可能となる。

 ほとんどの企業では、営業および経営上のマネジメント・システムを、財務指標か財務目標に基づいて構築している。このような指標や目標は、長期目標とその進捗状況とはほとんど無関係な存在だった。

 大半の企業で見られるが、それゆえ、短期的な財務指標を重視するあまり、経営戦略の策定と実行との間にギャップが生じてしまう。

 マネジャーはバランス・スコアカードを利用することで、業績評価を行う際、短期的な財務指標が唯一の評価指標だと考える必要がなくなる。

 さらに、バランス・スコアカードを単独で用いる、あるいは組み合わせることで、新しい4つのマネジメント・プロセスを導入できる。これらは、これまでその関係が見えなかった長期目標と短期的な行動とを戦略的に結び付ける(図2)。