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ABB(年商300億ドルの電気工業会社)は、その大胆な戦略とユニークなグローバル・マトリックス組織の展開で、マスコミの注目を集めている。ABBのマトリックス組織によると、全体で1300社にのぼる別会社の前線事業単位のマネジャーは、各地域のマネジャーと全世界を管轄する組織のトップに所属する。この構造は、ディジタル・イクイップメント、シティバンク、ウエスティングハウスなどいくつかの会社がかつて試みたものの、惨めな結果に終わり、わずか数年ほどで放棄したものと全く同じである。
ABBのCEO(最高経営責任者)兼社長、パーシー・バーネビック自身も、このような複合・定型的な企業構造については、疑問を感じている。それは次の発言から明らかである。「複合組織は行動力に欠け、融通性がなく官僚的です。おまけに組織体と顧客の間に壁をつくり、それを動かすべき人々の創意を失わせる。そして、このような環境にうまく対応できる人たちを誘致して昇進のチャンスを与える。そこでわが社はマトリックスと相反する特色を持つ組織をつくりたいと思ったのです」。
こうした弱点のあるグローバル・マトリックス組織にバーネビックが惹かれたのは、ABBが管理すべきいくつかのパラドックスを捕らえて、その中に取り込むことができるからであった。ABBのパラドックスとは、彼によると、グローバルと同時にローカル、大規模と同時に小規模、集権と同時に分権などであるという。
ところで、グローバル・マトリックス組織はこれらのパラドックスを取り込むことはできたものの、組織自体は、それがもたらすストレスを解決することがどうしてもできなかった。そこでバーネビックとトップ・マネジメント・チームは、重要な組織的関係およびマネジメント・ビヘイビアを再設定しなければならなかった。このタスクの達成には数年間を要した。
マスコミはABBが導入したこの魅力的な新組織を鳴り物入りで取り上げたが、バーネビックと経営幹部たちは、しばしば年間200日以上にもわたって本社を離れ、現業会社の長たちと会って、競争力の強化に役立つプロセスづくりに専念した。経営幹部の目指す方向は次のような組織だった。前線の事業単位で企業家精神が盛んになり、これらの小規模事業単位の優れた能力と競争力が、組織間の境界を越えてリンクされる。さらに、革新化プロセスの継続によって、今日の最高の経営方法が明日には硬直化した教条と化すのを防ぐ。
しかし、これらの目的の達成にとって新構造がいかに有力であろうとも、組織というものは組織的な変化のための一手段にすぎず、しかもあまり多くは期待できないということも、バーネビックにはわかっていた。
組織構造改革の限界
前編の『先進企業20社にみる経営トップの未来像(1)』では、経営に関する戦略・構造・システムの理念が、数多くの市場で多数の会社を経営する、巨大企業の成長をもたらしたことを述べた。この古典的原理によって、経営者は、(1)戦略立案者、(2)組織の設計者、(3)情報コントロール・システムの開発者兼マネジャーという、3つの中心的責務を担う。しかしこの原理に基づく組織モデル、つまり高度のマネジメント・システムに支えられた今日のヒエラルキー構造は、もはや競争力の増強には役立たないことが明らかになった。
それはいわば、ヒエラルキーの頂上からリーダーが秩序、シンメトリー、均一性を見下ろすといった、企業のタスクと責務を整然と段階的に分解したものである。一方、下からは前線のマネジャーがコントローラー集団を見上げる。この集団の要請は、前線のマネジャーのエネルギーと時間の大部分を吸い上げてしまう。その結果、GEの会長・CEO、ジャック・ウェルチの言うように、〝顔はCEO、尻は顧客に向ける〟という図式となる。
それでも大多数の企業が、重要な組織的ツールとしていまだに構造に依存していることは理解できる。というのも、事業部組織の創設を突破口として、GMのアルフレッド P. スローン・ジュニア、デュポンのピエール S. デュポンのような経営のパイオニアたちは、社業の飛躍的発展に成功したからだった。つまり、異なる事業を異なる方法で経営できるゼネラル・マネジメント階層を新たに創設することによって、製品や市場を多角化すると同時に、多角化を成長の手段として制度化したのである。
戦後の時代には、事業部長は国内需要に追われて、外国市場の拡大にはあまり目を向けなかった。そこで経営者は再び、組織というレバーを引いて国際事業部を創設し、それがきっかけとなって新たな急成長の時代が到来した。さらに、成長の時代が続くにつれて、事業部制というモデルさえも手に余るようになった。そこで経営者は、特定の業務を担当する戦略事業単位を創設し、事業部をグループやセクターに統合するという方法で、基本的な組織の調整を行った。



