-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
つい最近まで、グローバル企業とはどのようなものかという点で、多くのマネジャーが抱いていた明確な構図があった。中心に本社があって(しかもアメリカの大多数のマネジャーは、アメリカに本社があると考えていた)、そこが投資資本や新製品、経営に関わる政策決定の資力の元締になる。そして末端の海外系列会社がこれらの資力を利用して、各地域の市場開発にあたる。イノベーションと学習は中心から末端に流れる。すべてがうまくいけば、利益は元に戻ってくる。こういう図式だった。
しかし、ここ10年のうちに、グローバルな競争の新しい現実が、こうした従来の構図を一変させてしまった。それは単にアメリカ人マネジャーが末端へと広がる海外のグローバル・ビジネスの場に出るようになったというだけではない。製品のデザインや製造をはじめ重要な経営機能が、世界各地にあるその企業の主要な市場に移るにつれて、「中心」と「末端」という意味そのものが問い直されるようになった。そしてこの両者の適正な関係はどうあるべきかという点を考え直すことにもなったのである。企業を「グローバル」であると同時に「ローカル」であるようにさせることと、この両者の微妙なバランスをはかる適正な能力と組織を備えさせることとは、全く別問題なのである。
グローバル企業への努力
この点をイタリアのアパレル・メーカーのグルッポGFTを例にとって考えてみよう。イタリアのトリノを本拠地とするGFTは、デザイナー・ブランド製品のメーカーとして世界最大のものである。アパレル・ビジネスの最先端にあって、オーダー・メードのオートクチュールより1ランク下の既製服、「プレタポルテ」のデザイナー・コレクション市場でしのぎを削っている。GFTは、ジョルジオ・アルマーニ、エマニュエル・ウンガロ、バレンチノといったヨーロッパの有名なデザイナーのラベルを表看板にした企業である。その製品には世界でも最高の品質と価格を誇るものがある。紳士用背広や婦人服の中には、1着1200ドルという高価な製品もある。
最近まで、GFTは比較的規模も小さく、イタリアを中心とする企業であった。しかし、1980年代にヨーロッパ・ファッションに対するグローバルな関心の高まりの波に乗って、10億ドルビジネスへと躍進した。売上げのおよそ60%はイタリア国外でのもので、アメリカだけで26%を占めている。GFTのおかげで、高級品とヨーロッパ・デザインの代名詞であるあらゆる「イタリア製」ファッションは、世界から熱い視線を浴びることになった。イタリア人デザイナーによるアパレル製品を販売するアメリカ市場は、GFTがほとんど独力で開発したものである。同社のアメリカでの売上げは、1980年は700万ドルであったのが、1989年には3億400万ドルにまで伸びた。現在、グルッポGFTの傘下にある45の小企業と18の工場で働く従業員総数は1万人。およそ60種のデザイナー・コレクションをつくって、世界70カ国の市場で販売している。
しかし、GFTのマネジャーは、グローバル化を進めていくうちに、グローバル企業の意味が自分たちが初めに考えていたものとかなり違うことに気づいた。今彼らは、ますます多くの企業が直面している一連の逆説めいた現象を前にして奮闘している。
GFTにとって、グローバル化とは規格化を考えることではない。それどころか、いかに複雑な品揃えをするかを考えることなのである。グローバルな市場に浸透すればするほど、世界の主要市場のさまざまな違いにいかに対応していくかが、GFTの成長のカギになってきている。GFT会長のマルコ・リベッティの言葉を借りれば、「グローバルな企業になることとは、違いを認識してそれに即応できる十分な柔軟性を持つこと」である。
しかしそうした柔軟性を持つためには、組織を全面的に変える必要がある。ある意味で、末端が中心になるか、あるいは少なくともトップ・マネジメントの関心の中心になる必要があるのだ。地域の違いに適応するためには、これまでよりはるかに多面性を持った組織構造にしなければならない。すなわち、イノベーションが中央ばかりでなく、末端でも行われ、学習がさまざまな方向に流れるような組織構造である。GFTのグローバル・ビジネスの戦略の主眼は、重要な各市場の内部事情に通じた「インサイダー」になることなのである。
しかし、インサイダーになるということは、組織の面で非常に深い意味があった。簡単に言えば、GFTがそのビジネスのやり方を再構築しなければならなかったということである。顧客層を特定する方法、製品の開発と製造の方法、その販売と流通のやり方を組み立て直すことである。
しかも、こうした組み立てを考え直すことは1度で終わるのではなく、継続させていくプロセスである。要するに、GFTは、さまざまな市場の違いと市場内の変化に絶えず適応できる「デザイナー組織」をつくり上げようとしているのだ。GFTのデザイナー・コレクションが毎年変わるのと同じなのである。GFTのグローバル化をはかるマネジャーの第一の役割は、企業そのもののデザインを絶えず考えていくことである。
次に紹介するのは、新たに複雑化したグローバル競争に対処できる組織をつくり上げようと努力している企業の物語である。題して、「三都物語」としよう。



