アメリカでは新たな業界改革の波が目の前に押し寄せてきている。しかも今度は、巨大なサービス産業に襲いかかろうとしている。かつて神聖不可侵と考えられたサービス産業も、1980年代に製造業が経験したのと同様の困難でつらい業績縮小の道を、この1990年代に歩もうとしているのである。過去数年間にわたって、一流の銀行、保険会社、デパート、航空会社等をはじめとして、アメリカのサービス産業で失われたホワイト・カラー労働者の職はかなりの数にのぼるが、それは単に一時的な不景気を反映しているのではない。それらの職は永遠に失われたのであり、今後長期にわたりサービス産業で起ころうとしているさらに深刻な変革の予兆にすぎないのだ。

 アメリカのサービス産業が改革を迫られる理由は簡単である。最近に至るまで、サービス産業は競争から保護されており、非効率を駆逐するインセンティブがなかった。政府の規制に守られ、外国の競争相手も少なかったため、ホワイト・カラー労働者の人件費が膨らみ、情報システム等の最新テクノロジーへの投資が収益を超過し、生産性が停滞しても放置してきたのだ。

 だが今や、偉大なバランス装置である競争が激化しはじめ、これらの非効率が問題になってきている。規制緩和と外国からの直接投資の増加によって、市場には新たな参入者が次々に現れ、個々の企業、個別業界、さらにはアメリカのサービス産業全体の慣行や哲学に挑戦状を突き付けてきている。

 ちょうど1980年代に厳しい競争環境がアメリカの製造業の改革を促したように、効率性を求める力が多くのサービス市場に大変革をもたらしている。銀行業界には合併の嵐が吹き荒れ、ケミカル・バンク、マニュファクチャラーズ・ハノーバー、NCNB、C&Sソブランといった中心企業を巻き込んでいる。航空業界では、かつての巨大企業パンナムの遺産をめぐって各社の分捕り合戦が繰り広げられている。そしてピート・マーウィック、アーンスト・アンド・ヤング、ディロイト・アンド・トゥーシュ等、大きな会計事務所が次々に規模の縮小を余儀なくされている。

 アメリカのサービス企業たちは、やがて来るべき急激な変化に備えておかねばならない。アメリカが製造業の衰退を嘆いていたころ、サービス産業がきっと成長するという不確かな約束に皆は慰めを見出していた。広範多岐にわたるサービス産業が製造業の落ち込みをカバーして余りある新しい経済繁栄の原動力となるという考え方であり、脱工業化時代へ自然に移っていけるという期待である。

 だが、実際には苦痛に満ちた皮肉な結果を招きつつある。サービス産業がアメリカに再び経済繁栄をもたらす原動力となるという説の論拠となるはずの雇用創出力は、サービス産業が慢性的に経済効率性を軽視してきた証拠にすぎない。あるいはサービス産業が新しいテクノロジーの潜在力を十分活かせない証左ともいえる。こうした欠点を抱えていては、アメリカのサービス企業が常に変化し続ける国際競争環境、市場シェアの獲得維持につきまとうリスクに対して適切に対処することは困難である。

 サービス企業たちがそれぞれの持つ非効率性を克服しようとするにはまだ手遅れということはないが、ここで注意する必要がある。かつて製造企業たちが直面したのと同様の危機だと考えるかもしれないが、同じ失敗を繰り返してはならないのだ。すなわち、継続的な競争力の維持を犠牲にしてコストだけを削減してはいけない。過剰なコスト低減は、サービス業界自体の空洞化をもたらすおそれがある。短期的には合理化が進むが、長期的には技術革新が困難となり、顧客のニーズへの対応、質の高いサービスの提供ができなくなるからである。この際、コスト低減の要請と品質や柔軟な対応力に対する配慮を同様に重視してバランスをとるのがより良い対応といえよう。アメリカのサービス産業は、新たな競争環境に対応するため、即刻全面的な戦略の見直しを行う必要がある。

約束の地

 1980年代にアメリカが製造業で200万人の雇用を減らし、世界経済における主導的立場を失ったとき、急成長を遂げるサービス産業は広大なるフロンティアと考えられた。鉄鋼、自動車、タイヤ、機械等の製造が不振に陥っても、小売業、金融業、健康産業、各種の知的サービスといった業種は、アメリカ国内だけでなく、おそらく世界的に見ても成功を収めるだろうという慰めがあった。エコノミストたちがサービス産業における雇用者数の目立った伸びを指摘するにつれ、「サービス」がアメリカ発展の合言葉のようになっていった。アメリカはその強い雇用創出力において、ヨーロッパや日本を大きく引き離していると考えられた。

 表面的には、サービス産業はアメリカの大きな期待に十分応えてきたかに見える。過去10年間に、サービス産業が創出した新しい働き口は約2000万にのぼり、製造業での減少を補って余りあるほどである。

 その結果、アメリカの産業別人口構成は驚くべき変化を遂げた。1970年代には、民間経済における全就業人口の55%をサービス部門が占めていたのだが、1990年にはその数字が75%にまで上昇した。他方、製造部門の全就業人口に占める割合は第2次世界大戦以後半減しており、現在ではサービス部門の約4分の1にすぎない。