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ABB(エイシー・ブラウン・ボバリ)社の社長兼CEOのパーシー・バーネビクは、まさに企業のパイオニア的存在である。彼は、競争力のある新しい企業モデルを確立することに、CEOとしてヨーロッパ、いやおそらく世界一、精力的に活動している。その新しい企業モデルとは、グローバルな経営活動や世界一流のテクノロジーと、各国の市場に深く根ざすこととを、兼ね備えた組織である。彼は、ABB社の企業理念「グローバルに考え、ローカルに行動する」を実現するために活躍している。
チューリヒに本社を置くABB社は、ヨーロッパの由緒ある2つの会社、エイシー社とブラウン・ボバリ社との合併によってできた若い企業である。1890年創業のエイシー社は1世紀の間スウェーデン産業界で代表的企業であった。1891年創業のブラウン・ボバリ社も、スイス産業界でエイシー社に匹敵する地位を占めていた。1987年8月にバーネビクは、この両社の進路を一変させた。当時エイシー社の専務取締役であったバーネビクは、エイシー社がブラウン・ボバリ社と合併し、ヨーロッパの電力システムおよび設備の市場における、強力な新勢力となることを発表したのである。
ABB社の設立は、ヨーロッパの経済地図が変化することを暗示した。バーネビクは、レイオフ、工場閉鎖、各国間での製造品目の入れ替え、という統廃合と合理化の厳しい作業に着手した。こうしたプロセスは、鉄鋼、電気通信、自動車などのヨーロッパの産業界でもいつか行われることになるだろうというのが、識者の一致した見方であった。バーネビクの大胆な行動は、予想よりも早く、ヨーロッパ大陸の電力産業の大規模な再編を進めた。
ABB社の設立はまた、大西洋にまたがる、企業買収、再編、拡大の第一歩でもあった。ABB社は、36億ドル相当の投資により、60社について買収あるいは少数株主の地位を得た。その中には、北米における2つの大規模な企業買収が含まれている。1989年ABB社は、25の工場をもち総収入10億ドルの事業をかかえる、ウエスティングハウス社の変電および送電部門を買収した。同年、発電およびプロセス・オートメーション設備のメーカーであるコンバスチョン・エンジニアリング社も16億ドルで買収した。
今日ABB社の年間総収入は250億ドルを超え、従業員数は24万人以上である。ABB社のビジネスは、大西洋の両側でのバランスがとれている。ヨーロッパでの収入は総収入の60%に当たり、その内訳は、EC諸国と非ECのスカンジナビア通商圏とで、ほぼ半々である。ABB社最大の国内市場であるドイツでの収入は、総収入の15%に当たる。北米では年間70億ドルの収入を上げ、従業員は4万人いる。ABB社は、アジアではまだ代表的企業ではなく、アジアでの収入は総収入の15%にすぎない。しかし、アジアは、勢力拡大と投資の重要なターゲットである。ABB社は、ビジネス活動を先進工業諸国に限っているわけではない。従業員はインドに1万人、南米に1万人おり、東欧諸国に最も積極的に投資している西側企業の1つである。
このインタビューで、パーシー・バーネビク(49歳)は「マルチ・ドメスティック」企業を構築する理論と実践について詳しく説明している。彼は、ABB社のマトリックス・システム、すなわちローカル市場の存在や反応性を侵害せずに、中核となるテクノロジーとグローバルな経営活動を強化するための組織について説明している(囲み「ABB社の組織論理」参照)。彼は新しいタイプのマネジャーである「グローバル・マネジャー」について述べ、グローバル・マネジャーの手腕が、従来のマネジャーの手腕とどのように異なっているかを説明している。ABB社のような企業と、政治との関係についても、彼は率直に語っている。
ABB社の組織論理
ABB(エイシー・ブラウン・ボバリ)社は、驚くほど多様なビジネスを行うグローバルな組織である。しかしその組織原理は単純にして明確である。ABB社は一面では、世界中に張りめぐらしたネットワークである。世界中にいる役員たちは、国境に関係なく製品戦略や企業活動について決断を下す。また別の面では、ABB社は、従来の方法で組織された各国のローカル企業の連合体である。各企業は、できる限り自国の市場の需要に対応している。ABB社のグローバル・マトリックスは、この2つの面を兼ね備えている。
会社のトップには、CEOのパーシー・バーネビクと役員会の12人のメンバーがいる。この首脳陣が3週間ごとに会合を開き、ABB社のグローバルな事業戦略と事業活動についての意思決定を行っている。役員会は、スウェーデン人・スイス人・ドイツ人・アメリカ人で構成されている。チューリヒ以外に拠点を置く役員が数人おり、会合は世界各地で開かれる。
役員会への報告は、世界各地にいる約50の事業分野の責任者たちが行う。事業分野は世界中にあり、そこに会社の製品とサービスが割り振られている。事業分野は8つの事業区分(Business segment)にまとめられており、役員会のメンバーが各区分を担当している。たとえば、製造工程を自動化するための部品・システムおよびソフトウエアを販売する「工業」区分には、冶金・駆動装置・プロセス工学を含めて5つの事業分野がある。この区分の事業分野の責任者たちは、コネチカット州スタンフォードに拠点を置くドイツ人の役員ゲルハルト・シュールマイヤーに報告する。
各事業分野に1人ずつ総括責任者がいて、グローバルな視点でビジネスを最も効率的に伸ばす責任がある。グローバルな戦略を考え、実行し、世界中の工場のコストと品質の水準を維持し、輸出先の市場を各工場に割り当て、国境を越えた人材の交流によって専門技術の情報交換を促進し、問題解決のために様々な国籍の人々からなる混成チームをつくり、信頼とコミュニケーションに基づく風土を育むのである。16カ国25の工場を担当している電力変圧器事業分野の総括責任者は、ドイツのマンハイムに拠点を置くスウェーデン人で、計器装備事業分野の総括責任者はイギリス人である。電気計器事業分野の総括責任者は、ノース・カロライナ州を拠点とするアメリカ人である。
各事業分野別の組織と並んで各国別の組織がある。先進工業諸国では、ABB社の事業は、それぞれ社長がいて、貸借対照表・損益計算書および昇級制度を備えた、その国の企業として組織される。たとえばドイツでは、ABBドイツ社が、従業員3万6000人で、40億ドルの年間収入を上げている。ABBドイツ社の専務取締役エーベルハルト・フォン・ケーバーは、ドイツの従来のCEOに当たる役割を果たしている。彼はドイツの銀行の代表者や労働組合の役員を含んで構成される監査役会に報告する。他のドイツ企業と同様に財務諸表を作成し、ドイツの技能修得プログラムにも全面的に参加している。
事業分野別の組織は、ABB社傘下の会社レベルでは、各国別の組織と一致している。パーシー・バーネビクは徹底的な分散化を提唱している。可能な限り、ABB社は50の事業分野の営業活動を行う独立した企業を、様々な国でつくっている。たとえば、ABB社は、ノルウェーで産業用ロボットを販売するだけではない。ノルウェーには、ABB社のロボット産業の会社があり、そこでロボットを製造し、国内の顧客に販売し、サービスを提供し、事業分野の責任者が割り当てた市場へ輸出しているのである。
このようなローカル企業は、世界中に1100社ある。その社長は2人のボス、つまりその事業分野のリーダーと、その国の総括責任者である親会社の社長に報告する。この交差する2方向の経営管理によって、ABB社の「マルチ・ドメスティック」組織が現実のものとなる。
このインタビューは、チューリヒにあるABB社の本社でHBR誌副編集長ウィリアム・テイラーが行ったものである。
グローバルな最適化の方法
HBR(以下略、ゴシック部分がHBR):どこの企業もグローバル化しようとしていますが、ABB社がほとんどの企業よりもグローバル化が進んでいることは、誰もが認めるところです。それはどうしてでしょうか。
パーシー・バーネビク(以下略):ABB社は、地理的な本拠地を持たず、また特定の国に肩入れすることもない企業です。わが社は、グローバルな調整機能のもとに集まる各国のローカル企業の連合体なのです。わが社はスイスの企業でしょうか。本社はチューリヒにありますが、そこで働いているスタッフは100人だけですし、その人数を増やすつもりもありません。わが社はスウェーデンの企業でしょうか。CEOの私は、スウェーデンで生まれ教育を受けました。しかし、わが社の本社はスウェーデンにありません。それに、役員会の8人の役員のうちスウェーデン人は2人しかいません。
おそらくわが社はアメリカの企業でしょう。わが社では財務報告を米国ドルで行っていますし、英語が公用語だからです。ハイレベルの会議はすべて英語で行っています。



