世界経済は産業競争の新しい時代に入った。いまや主要先進国と、ますます多くの発展途上国が加わって、重要なテクノロジーの同じ部門で競争している。アメリカ国防総省から発行された1989年版の「重大技術計画」では、22種類のテクノロジーが将来の軍事的安全保障にとって欠くことのできないものと指定された。しかし、これらのテクノロジーは商業的な強さの指標でもある。リストに載っているのはつぎのようなテクノロジーである。超小型電子回路とその組み立て方、ガリウム砒素その他の半導体用化合物、ソフトウエア、パラレル・コンピュータ・アーキテクチャー、人工知能とロボット工学、コンピュータ・シミュレーションとモデリング、集積光学、ファイバー光学など。

 しかし、こうしたテクノロジーが生み出した市場の競争が激化するなかで、アメリカは基本的に不利な立場に立っている。それはアメリカの企業の体質が競争に弱いからというわけではない。多くの分野のアメリカの技術は、世界でも指折りのものである。労働者の生産性も非常に高い。アメリカが不利な立場に立っている原因は、こうした技術的なことではなく、この国の世界に果たす役割についての考え方が、ますます時代遅れになっていることにある。

 第二次大戦以来、世界におけるアメリカの地理的政治的な役割の特徴となる点が2つあった。1つはアメリカが非共産圏世界における政治的ならびに軍事的なリーダーであったことである。そして第2は、アメリカが自由市場貿易体制の推進役となってこれを保証してきたことである。この2つの役割から、国内的に矛盾をはらんだ政策が次々に打ち出され、それがいまアメリカの企業の競争力を阻害しているのだ。

 無干渉主義の枠組を堅持する国としてアメリカは、民間を指導していると明らかにわかるようなテクノロジー政策を一貫して拒否してきた。そして、アメリカの軍事的な優位を確保しておくために、ペンタゴンは国防主導型の巨大なテクノロジー開発構想をつくりあげた。ペンタゴンの一部の高官は、国家の「防衛産業基盤」にとって欠かせないと思われる先端技術や製品に資金をふり分けるよう主張してきた。しかしその一方で、同じペンタゴン内の別の高官たちは「国家安全保障」の必要性を口にして、アメリカの企業がこうしたテクノロジーや製品を商業的に有利に利用できる能力を抑制してきた。結局は、アメリカが自由貿易に意を傾けるということは、すなわち、アメリカの国内企業の利益となるように貿易政策を利用することは控える、ということを意味する。しかし、アメリカが西側の軍事同盟を強化し維持したいと望むことは、同盟国が自国のメーカーの利益となるような貿易政策をとっているときに、アメリカだけが反対の方向を見ていることになる。

 こうした矛盾がもっとも端的に表れているのが、アメリカの国家安全保障政策にもとづく輸出統制制度である。1949年以降、アメリカ政府は念の入った、しかもあまり褒められないような輸出統制制度を維持してきた。これは武器輸出についての規制だけではなく、軍事用と民生用の双方に応用できる、いわゆる「共用技術(デュアル・ユース・テクノロジー)」についても適用される規制制度である。現在、この輸出統制制度は、輸出向けのアメリカ製品および技術データの40%に適用されており、アメリカの先端技術のほとんどすべてが対象になっている。東欧における改革の影響を受けて、この輸出統制制度はここ数年来いくらか緩和されてきている。しかし、全体の手続きは基本的には全く変わっていない。

 この統制制度の代償は膨大な数字になる。1987年の全米科学アカデミー特別委員会の調査によると、輸出統制制度によってアメリカの企業がこうむった商売上の損失は年間93億ドルに上るという。しかし、輸出統制制度の実際の代償が、これよりはるかに多いことは確かである。輸出統制制度のために、アメリカは東欧諸国と発展途上国で膨大な額にのぼる商取引のチャンスを失っているからである。

 ここで、ニューヨーク州エルマイラを本拠地とする工作機械メーカー、ハーディング・ブラザーズ社の例から教訓を学びとることができないか、考えてみよう。1980年代の半ばに、ハーディング社は中国に販売基盤を設ける計画に乗り出した。当時中国と商売上の結びつきを強く求めていたアメリカ政府の後押しを受けてのことだった。ハーディング社はかなりの熱の入れ方で、中国から顧客の代表をアメリカ国内でトレーニングするために呼び寄せたほどだった。1988年、ハーディング社の努力は報われ、上海にあるシャン・シュウ・ウォッシング・マシン社から7台の工業用旋盤の注文を受けた。しかし、ハーディング社がこの注文に応じるために輸出許可手続きを申請すると、アメリカ国防総省は販売に待ったをかけたのだ。この機械が、許容限度をごくわずか上回るだけの誤差範囲で穴を開けたりできる加工性能があるからという理由だった。ハーディング社は裁決の撤回を訴えた。しかしその間に、中国側の会社は、代わりにドイツのメーカーに機械の発注をしたのである。1989年1月にも、ハーディング社は同じような目にあった。長年の得意先だったブラジルの会社が発注を取り消してきたのだ。「アメリカの輸出承認手続きは時間がかかりすぎる――機械はドイツからでも買える」という説明だった。この時点で、ハーディング社が申請した23件の輸出承認がペンディングになっていて、その中でいちばん古いのはおよそ1年も前に申請したものだった。

 アメリカの輸出統制制度の基礎となる暗黙の前提は3つあった。この統制制度が設けられた1949年当時は、こうした前提は正しかったが、事態が変わるにつれて、かなり以前から時代にそぐわなくなっていた。その前提とは、つぎのようなものだった。

 1.「アメリカは世界のリーダーであり、したがって先端技術の普及についてはアメリカがコントロールする」。ところが、先端技術を支配するどころか、アメリカはいまでは大勢の中の1人にすぎないような存在になっている。秘伝とされるような数種の先端技術を除いて、事実上ほとんどすべてのテクノロジーが、ヨーロッパや日本から手に入れることができる。韓国、台湾、その他のアジアの諸国の技術も利用できるようになってきている。

 2.「輸出はアメリカ経済にとって大して重要なものではなく、統制制度の商業的な代償はとるに足らない額である」。実際は、輸出がアメリカの競争力に重大な影響を及ぼしている。アメリカのGNPに占める輸出の割合は、7%から8%で、比較的少ない。しかし、市場がグローバル化したいま、輸出市場に浸透できないことは、国内市場の弱体化に通じることになる。