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一昔前には、多くの企業が自社の営業マンを通じて、あるいは流通業者を通じて、単一の方法でマーケティングを行った時代があった。しかしながら、自社のシェアを守るため、また対象市場を拡大するため、さらにはコストを節減するため、今日ではより多くの企業が、異なった顧客セグメントや異なった状況に応じて、新しいタイプのマーケティング方式の力を借りるようになってきている。自社の営業マンによる直接販売と流通業者による間接販売、小売店による販売とダイレクト・メール、ダイレクト・メールと自社営業マンによる直売というように、近年の経営者たちは既存の販売チャネルに新しいチャネルを加えて、コスト節減やマーケティング対象範囲の拡大を図っている。そして、販売チャネル、マーケティング方式の追加によって、企業はハイブリッド(混成型)・マーケティング・システムを構築するのである。
IBMの場合を見てみよう。長い間、IBMのコンピュータを購入するには、同社の販売部門から直接購入する以外に方法がなかった。だが、小型低価格のコンピュータ市場が急成長すると、IBM経営陣は、単一の販売チャネルに頼ることがもはや時代遅れであると気づいた。IBMは、1970年代末になって、ディーラー、流通業者、カタログ販売、ダイレクト・メール、テレマーケティングといった新しいチャネルを次々に増やしていった。IBMがそれまでの70年間に築き上げた自慢の営業要員は5000人に上る。それが10年たらずの間にほぼ倍増され、顧客と結ぶ新たな18のチャネルが加えられたのである。
アップル・コンピュータ社も、最初は明確な単一チャネル戦略で営業をスタートした。アップル社は、独立ディーラーのネットワークを通じて低価格コンピュータを販売した。しかしながら、大企業の顧客に対し、より高性能の機種を納入するようになると、この戦略も変更が必要となった。アップル社は、全国規模の大企業を対象とする営業マネジャーを70人雇い、直売を始めたのである。
IBMやアップル社は、これらの新しい販売チャネル、マーケティング方式を加えることにより、ハイブリッド・マーケティング・システムを構築した。このようなハイブリッド・システムの出現の背景には、時代の強い要請があり、あらゆる角度から判断して、ハイブリッド・システムが1990年代のマーケティング・システムの主流となると考えられる。と同時に、賢明な経営者は、ハイブリッド・システムを運営することのリスクの大きさにも気づくはずである。IBMのように直接的販売戦略から間接的販売戦略へと比重を移した場合も、その反対にアップル社のように間接的戦略から直接的戦略へと変化した場合も、結果は同じこと、でき上がったハイブリッド・システムは使いこなしにくいのである。
新しいチャネルと方式が出現すると、当然のごとく競合と統制の問題が生じる。マーケティング方式の数が増えれば、お互いに顧客や売り上げを競い合う関係となり競合の問題が生じるし、間接的なチャネルは直接的チャネルに比べて経営者の意向に従いにくいため、統制の問題が出てくるのである。だが、使いこなしが困難である分、ハイブリッド・システムがもたらすメリットも大きい。企業がハイブリッド・システムにより、対象市場の拡大、コストの低減、きめこまかい顧客対応等の恩恵を受ければ、伝統的なマーケティング方式に固執するライバル企業に対し、競争上かなり優位に立つことができる。
ハイブリッド・マーケティング・システムの実例は、コンピュータのようなハイテク産業にとどまらず、繊維、金属、事務用品といった従来型の産業、さらには保険のようなサービス産業にも見いだすことができる。本稿で紹介する実例は、ハイテク企業のものが多くなるが、それはハイテク企業においてハイペースで起こっている動きを見れば、他産業のこれからの方向性を予見することが可能となるからである。しかし、他産業においても、ハイブリッド・システム化の動きはペースを早めているようだ。経営者を対象として最近行われたある調査によれば、回答者の53%が、1992年までにハイブリッド・システムを使う意向を持っており、1987年時点ですでにハイブリッド・システムを使っていた企業が33%であったことと比較すると劇的な増加を示している。
ハイブリッド・システムへの動きが加速しているのは、次の2つの理由が大きい。1つは、対象市場を拡大したいという企業の欲求であり、もう1つは、コストを抑えなければならないという企業の必要である。企業が成長を続けるためには、新しい顧客、新しい市場分野を開拓しなければならないのが普通である。そのため企業は、既存の販売チャネル、マーケティング方式のほかに新しいチャネルや方式を加えて、新たな顧客層を獲得しようとする。この新たな販売チャネル、マーケティング方式の追加がハイブリッド・マーケティング・システムを生み出すのである。
コスト抑制の必要は、ハイブリッド・システムの浸透を促すもう1つの推進力となっている。企業は、直接販売方式よりもっと効率的に顧客に到達しうる方法を探しているのだ。1990年において、全国規模の顧客担当の営業マネジャーが対面販売を行うのにかかるコストは、時間当たり500ドルにも達し、地方の販売要員の場合でも時間当たりの平均コストは300ドルに及ぶ。販売部門と管理部門のコストは、一企業のコスト構成の20~40%を占めるのが普通だから、企業の競争力、収益力に直接影響を与えることとなる。例えば、デジタル・エクイップメント社の1989年の販売及び管理部門のコストは、収入の31%に当たり、サン・マイクロシステムズ社の場合も約24%であった。
こうした事情があるため、多くの企業は、時間当たりコストが17ドルのテレマーケティングや、1回の顧客との接触に1ドルしかかからないダイレクト・メールといった手法を採用している。このような低コストの方式によるマーケティング戦略は、めざましい結果をもたらしうる。携帯・移動通信機器及び部品を販売するテスコ社は、低コストのマーケティング手法に依存して、業界でも成長率1、2を争う企業となった。テスコ社の場合、ダイレクト・メールとカタログ販売によって商売の手がかりをつくり、テレマーケティングによってその手がかりを具体化するとともに、売り込みを図り、質問に答え、商談を成立させる。さらに、テスコ社は、1件ごとにサービス・テレマーケティングでアフタケアを行い、自動的に再注文を受けることにより顧客の維持に努めている。その結果、テスコ社は、直売のような従来型の方式に頼る競争相手たちに比べ、かなりコストを低減することができたのである。



