私はアメリカのアントレプレナーであり、かつ成長中の先端技術企業、フュージョンシステムズの経営者という立場にある。今、私は日本で特許侵害から先端技術を保護するには、それまで想像していたよりももっとたくさんの落とし穴があることを知って当惑しているところである。長い争いとしてよく知られている当社とその600倍もある三菱電機との特許論争は、とても難しいものであり、日本でのビジネス活動の中で何度も失望を味わわされたものだった。

 過去6年間にアメリカ企業のトップに対して、日本の特許制度は本当はどんなものなのかを当社の経験を通してお話しする機会が与えられた。私はまた経営者レベルの人々が先端技術を保護する新しい戦略を立てることが特に必要だと確信するようになった。外部の人はこう言うかもしれない。当社のような比較的小規模な、年間売上が3500万ドル、従業員330人程度のフュージョン社ごときの経験は、大企業の当面する事件の参考にはならない、と。しかしそれは違う。小規模ということは単純ということであり、だからフュージョン社と三菱との争いは根本的な問題をよりはっきりさせることができるのである。我々が当面したような問題は、日本企業以外では、大企業であろうとなかろうと本質的に同じなのだ。

 成功しようと考えているならば、マネジャーとしては「不動の」心構えを持って会社を引っ張っていかなければならない。しかし、アメリカのトップはまだ先端技術を保護する日本のシステムを実際のものとして理解していない。そうした理解の欠如は、法律専門家がこの問題に示す反応によって代表される。私はこう思っている。すなわち日本でビジネスをしているすべてのトップは、個人的にも完全に日本の特許システムを理解するべきである、と。というのは日本の特許システムは外国人にとって危険なものであり、失敗するとしたらそれが原因であり、さらにこの危険な国土を通る際の道しるべでもあるからだ。(囲み「知的所有権とアメリカ企業のトップ」参照)

知的所有権とアメリカ企業のトップ

 アメリカ企業のトップは特許をつまらないものと見たり、知的所有権の運用を法律専門家の不思議な手法と見ている場合が多い。しかし、会社の技術的な宝物を保護することは、それを弁護士に任せっぱなしにしておくにはあまりに重大な問題である。いったい堅実なトップ層であって、会社の資金繰りを経理部に任せてしまって4半期ごとの最終結果にしか注意しない人物がいるだろうか。ところが、こと特許書類の扱いについてトップ層に尋ねてみるとこう答えるのだ。「ああ、特許の手続きならうちの弁護士がちゃんとやっているさ」と。そしてもし問題が起きたら「うちはライセンスしているからね。まあ細かいことはわからないけれどうまくいってますよ。日本でいいビジネスをつかんでいるし」。たぶん目先ではそれでいいだろう。だが長期的に見てそんなやり方はどうだろうか。

 普通のアメリカのエグゼクティブは抵抗の少ない道を選ぶといういつもの癖で、あるいは当面のライセンスの利益が日本の市場で積極的に展開する投資より効率がよさそうだからといって、攻撃的な競争相手にライセンスを与えすぎている。「これが日本のやり方ですよ」と助言する日本人やアメリカ人の特許専門家に勇気づけられて、アメリカのエグゼクティブは、自社の技術を犠牲にした上で、最終的に何が得られるかを検討することなしに、ロイヤリティーのパーセントのほうに注目しがちである。

 その上に日本にライセンスしたことによって、アメリカ企業は必然的にその市場での存在価値を放棄し、顧客と直接接触する機会を奪われているのである。日本のライセンシーはその技術の本質と市場での貴重なやりとりを、次世代の商品の開発と基本的な製造技術の改良に利用する。それから彼らはアメリカの市場へその優れた製品を引っさげて参入してくるのである。

 このようにして、アメリカ企業が技術革新に対する意欲を失ったころに、日本企業はその製品に代わって乗り込んできて、ついにはその産業全体を自分たちのものにしてしまう。アメリカ合衆国は進取の気性に富んでいるはずなのに、すでにいくつもの基幹産業においてその地位を失っている。アメリカの知的財産権は日本企業の手中に落ちてしまっているから、特許の洪水やクロスライセンスやその他の特許戦略の結果として、彼らライセンシーは新たな改革者となって我々のコアとなる発明を改良技術で包囲し、その上、我々と市場とを切り離してしまっている。こうした例はいくらでも転がっている。例えば鉄鋼産業、家電、自動車、半導体その他の数え切れないほどの分野である。

 結局は日本で知的所有権を効果的にかつ高い信頼性のもとに保護する方法は、アメリカ側のネゴシエーターが日本の特許制度を、世界に通用するビジネスのパートナーとしての基準にまで育て上げることに成功するかどうかにかかっている。

 これまでのところ日本側は審査期間の遅れを認めただけで、基本的な問題があることは断固として認めていない。その上、政府間交渉においてアメリカ政府機関の対応は一貫せず、また日本の特許制度の改善を粘り強く要求しもしなかった。

 特許の侵害問題は、日本でビジネスをする技術志向型企業のアキレス腱でもある。もちろんビジネスで成功するための基本的条件が開発、製造、販売、サービスなどにおける優越性であることに変わりはなく、高い品質の維持と責任感がビジネスの本質である。しかしアメリカの技術志向企業の経営者は、規模の大小を問わず、日本の特許制度、日本での特許要件、特許戦略の手法について、そして価値ある技術を保護するには投資が必要だということを理解しておかなければならない。こうした日本の特許制度に関する総合的な理解が、膨大な潜在力を持つ日本市場で確実にかつ効果的に成功しようとしているアメリカ企業の支えになるのである。

 アメリカ式の保護を期待して日本市場へ参入するアメリカ企業は勉強不足である、と言いたい。日本の特許システムと欧米のそれとは根本的に違っているのだ。西洋の特許システムの目的とするところは、アントレプレナー個人や、革新的なビジネスを保護し、その努力に報い、さらには発明や実用的な知識の進展を奨励することにある。ところが日本の特許システムの目的は違う。それは技術を守ることではなく、それをみんなで分け合うことにあるのだから。事実そのシステムはより大きい国家目的に奉仕するようになっている。ここでいう国家目的とは、企業間の争いを避けるというやり方で技術情報を早く分散させ、幅広い協力関係をつくり出し、そうして日本の産業を全体として発展させるというものである。

 こうした日本のアプローチは、日本のカルチャーの一般的な特徴と共通している。日本では調和や協調、上下関係が大切にされる。だから日本の特許システムはそのプロセスとして小企業よりも大企業の味方をすることになり、日本の起業家精神に水を差している。このシステムは、さらにその本質を理解していない外国企業を極めて不利な立場に追いやることになる。

 当フュージョン社の経験からいうならば、日本の特許制度は小企業から改良技術を奪い取り、自社の既設のシステムに取り込むに十分な力を持った企業にとって有利なように組み立てられている。具体的にいえば、日本の特許制度の知識の普及に対する努力とは、結局はその特許システムの内情を知った日本人に情報を入手させ、それを自社の利益へ切り替える経済力を使うことのできる企業の手の中に技術を集中させることなのである。

フュージョン社の技術

 前に説明したように、改良技術の保護に関して日本は欧米と違った考え方を持つ国なのだが、しかしわがフュージョン社はその日本でビジネスで成功している点を強調したい。当社はそこで三菱を含めて支配的な立場にいる。これは尊敬する日本の需要者、従業員そして販売店とともに開発した結果であり、この意欲的な関係は私の誇りである。その上、我々は日本でビジネスを続けるべきであると信じている。なぜならそこは巨大で成長を続けるマーケットであり、さらに過酷な要求をしてくる需要者や、強引な競業者との関係が当社の効率よく迅速な対応力を育ててくれるからである。

 当社は個人持ち株の製造業者であり、施設をメリーランド州のロックビルに置いている。我々5人はこの会社を1971年に設立した。当時は終日ワンルームの研究室で実験を繰り返し、試行錯誤や失敗の連続だった。そしてついに3年後、当社のコアとなる技術の開発に成功した。それは500から6000ワットのマイクロ波のエネルギーによる高強度紫外線ランプだった。従来の蛍光灯やネオン、ナトリウムランプと同じように、そのマイクロ波ランプもエネルギーの集中時に発光するガスを内蔵しているのだが、特に電流をガスに送るために金属電極を使う代わりにマイクロ波のエネルギーを使っている点が特徴である。そのために発光が強く、安定しており、かつ制御がしやすく広い用途に利用できるのである。

 三菱を含めて他社が低電力(1~5ワット)のマイクロ波放電光源装置の開発に時間をかけているうちに、当社は1970年代初期の高電力(3000ワット)技術を突破口としてマイクロ波放電光源装置の製品化に足がかりをつくったのである。同時に当社は開発の成果として本当に斬新な発明を、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本へ特許を出願して特許を受けた。

 当社がその技術を開発していたころ、金属やガラス、あるいはコーティングした紙のような吸収性のない材料の表面に印刷するためのインクを探している業界が見つかった。それまでの方法ではインク内の溶媒を蒸発させるために加熱オーブンを使っていたのだが、その方法では公害の発生源となり、しかも広い加工工場と多くのエネルギーとを必要としていた。ところが紫外線を利用する方法では紫外線が光化学反応を起こさせて、特殊な紫外線反応インクやコーティング剤、接着剤をたちまち乾燥させてしまう。そのために、この方法を使えば乾燥時間を数分の一秒に短縮できる。その上、紫外線ランプはあらゆる応用分野で、コンパクトで公害の発生原因にならず、しかも安くつくといった利点を発揮できるのである。