学習曲線と経験曲線のアプローチは常に有効なのか

 学習曲線とは「生産量が2倍になるごとに、生産コストが規則正しく標準的な割合で減っていく」という、単純ながら有力な考え方である。この学習曲線を念頭に置いたマーケティング戦略や製造戦略を立てて成功した企業は数多くある。なぜ戦略立案の際に学習曲線が重要になるかというと、この曲線は「生産量および市場シェアを増やせばコスト面でも競争優位が得られる」ということを意味するからだ。

 とはいえ、このような市場浸透・コスト削減戦略を進めていくと、予想外の望ましくない結果が生じることもある。コスト削減の努力に付随して、柔軟性の低下やイノベーション力の消失、間接費の増加などが起きる可能性があるのだ。

 こうしたコスト最小化戦略がもたらしうる帰結を事前に検討しておかないと、いずれ生産量の増加ペースが減速して大幅なコスト削減ができなくなった時点で、他に競争力を高める方法がほとんどないことに気づく、という事態に陥りかねない。

 だが、ありうる帰結を事前に知っておけば、それを織り込んだ戦略を立てることもできるし、まったく別の戦略を選ぶこともできる。本稿ではそうした帰結を分析し、次のような結論を得た。すなわち、急カーブを描く学習曲線がもたらすであろうコスト削減の恩恵を受けつつ、同時に製品イノベーションや製品性能の改善をハイペースで実現することはできない──。この2つはそれぞれ別の戦略から得られる果実なのだ。この点をマネジャーは認識しなければならない。

 このような〈生産量増加/コスト削減〉の関係を提唱した人たちは、「学習曲線」と「経験曲線」という2つのやり方でそれを示した。2つは互いに関連するが、それぞれ異なるアプローチである。

(1)学習曲線(進歩関数、始動関数とも呼ばれる)は、生産量の増加に伴い単位当たりの製造コストが低下することを示す。飛行機の機体やカメラなど、標準化の進んだ製品で典型的に見られる。

(2)経験曲線は、生産量の増加に伴い1製品の総コストが長期的に低下することを示す。一般に、学習曲線よりも多くの種類のコストが低下すると予想できるが、この間に製品設計や製造方法が変化してもその影響は一切受けない。経験曲線が形成される典型的な製品はガスレンジやティッシュペーパーだ。

 この2つのアプローチは、多くの戦略立案や分析においてどちらを使ってもかまわないほどに似通っている。しかし、本稿でこの先説明するように、価格政策や製品設計の変更によって2つのアプローチで大きな違いが生じることがある。したがって、2つのどちらを使うのかは慎重に考える必要がある。

戦略上の難問

「生産量が倍になるごとに製造コストだけでなく総コストも予測可能な一定割合で低下していく」という考え方は、事実によって裏づけられている。半導体や石油化学製品、自動車、合成繊維など多くの業界の製品で、実際にその通りのコスト低下が起きたのだ。

 この〈生産量増加/コスト削減〉の関係は、信頼性が高く定量化もできるため、製造部門だけでなくマーケティング部門や財務部門においても戦略策定ツールとして魅力的である。さらに言えば、なるべく早くに可能な限り大きな市場シェアを狙う戦略の場合、市場に浸透できるだけでなく、同じだけの生産量に到達できていない競合に対して優位に立てるというメリットもある。