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今まさに真の品質革命の波が、サービス産業に押し寄せている。近年、ほとんどのサービス企業の経営幹部は、自分たちの意に反して、顧客を満足させるという責務を果たせないでいる。しかし、サービス企業も今では、製造業者が1980年代に学んだ教訓を理解するようになった。つまり、品質はそれを計測しなければ向上しないという鉄則だ。製造業者は作業屑や手直し、機械故障などの失費と影響を解明するようになって、初めて"品質"が単なる士気高揚のためのスローガンではなく、収益性向上の最良の方法だということを認識した。製造業者は、"Zero Defects"(無欠陥運動)を標識灯として、品質向上運動を展開した。
さて、サービス企業にも、製造業者の作業屑に相当する難点がある。自社のサービスを再度利用しようとしない客の存在だ。そうした一度きりの客も損失を生じさせる。サービス企業が、その損失額を計算するようになれば、そのような客の数を減らすことが緊急課題であることを理解するだろう。そして、利益をもたらす顧客を1人残さず維持する"無離脱運動"に全社的努力を傾注するだろう。
顧客離脱率は、企業収益に予想以上に大きな影響を与える。事業規模や市場占有率、単位原価、その他通常、競合上有利と目される多くの要素よりも、顧客離脱率が密接に収益に結び付いている。1人の顧客の固定客としての年数が長ければ長いほど、利益が増大する。それもかなり高率の収益となる。企業は、顧客維持率を5%上げるだけで、利益率をほとんど100%向上させることができる。
顧客離脱率は利益変動の的確な先行指標であり、利益動向を明確に反映する。また、現場のマネジャーの注意を顧客離脱の具体的原因に向けさせる役目も果たす。企業は顧客を強制的に引き留めておくわけにはいかないので、顧客離脱を防ぐ唯一の方法は、競合市場で持続的に優位に立つしかない。企業は離れていった客に追跡調査に応じてもらい、自社の重大な弱点を知り、それを改善強化することで、収益減を未然に防止することができる。従って、顧客離脱分析は、企業の継続的な弱点改善の指針となる。
アメリカ東部のデラウェアに本拠を置くクレジット・カード会社、MBNAアメリカ社のチャールス・コーリ社長は、離脱する顧客が、一般の顧客が何を重視しているかを会社に教えてくれるものだ、という点をよく心得ている。1982年のある朝、複数の顧客からの苦情の手紙に失望したコーリ社長は、全社員300名を集めて、今後は顧客すべてを満足させ、維持するつもりだ、と自分の決意を表明した。同社は早速離脱した顧客から情報を収集し始めた。そして、その情報に基づいて商品と事務処理を頻繁に調整した。
サービス品質が向上するにつれて、当然、離脱する顧客が減少した。MBNA社の顧客離脱率は、8年後に業界で最低になった。年間離脱率は約5%で、業界平均離脱率の2分の1である。5%の差は一見僅少だが、それがもたらす利益は莫大だ。同社は、他社を買収することなく、業界ランキングを38位から4位にまで押し上げ、16倍の収益を達成している。
顧客を1人失った場合の損失額
企業が離脱顧客1人当たりの損失額を知れば、顧客維持に必要な投資を正確に評価することができる。残念ながら、現在の会計方式は、固定客の価値を把握しない。ほとんどの会計方式は、当期原価と収益を重視し、顧客の終身期待キャッシュ・フローは無視してしまう。適正なサービスを受ける固定客がもたらす利益は、年ごとに増加する。このパターンは、多様な業種の企業に当てはまる。固定客を長期間維持すれば、それだけ企業の利益が増加する(図1参照)。例えばある自動車関連企業の場合、固定客となって4年目の顧客から得られる期待利益は、初年度の3倍以上である。離脱する顧客は、そうした期待利益をすべて持ち去ってしまう。
顧客を1人獲得するには、当然広告や販売促進のための経費が必要である。例えばクレジット・カード会社では、新規客を1人増やすのに平均51ドル支出する。しかし、収益性を決定する要素は、そうした支出だけではない。
クレジット・カード会社の新規客は、加入当初はそれほど頻繁にカードを利用せず、基礎利益をもたらすにすぎない。しかし、そのカード利用者が2年目に入ると、利益が著しく増大する。カードを利用する便利さに慣れ、クレジット・カード会社が提供するサービスに満足すれば、顧客のカード利用率が高まり、残高が増える。2年目、3年目と年を追うごとに増えるクレジット額が、利益率を高める。この傾向は、我々が調査した20数業種、100社以上の企業のすべてで認められた。ある工業品流通企業の得意先1社当たり正味売上高は、取引開始から19年目にして、なお増加し続けている。




