通信手段が電話と手紙しかなかったとき、また輸送が時間単位、日単位ではなく週単位や月単位で行われていたときは、2~3種類の製品に集中すること――そしてマネジャーに製品の生産プロセスのすべてのステップをコントロールさせる垂直的な統合――が、現実的な意味を持っていた。しかし現在では、そうした旧来の戦略的公式はもはや有効ではなくなっている。

 新しい技術を使えば、経営者は自社の価値連鎖を分割し、社内の戦略的キーエレメントを操作して、世界のどこででも最小の取引コストで他社を有利に利用することができる。さらに顧客のニーズを満足させるために、あらゆる基本的な活動を効果的に組み合わせて活用することも可能である。このような環境の下では、統合型よりも焦点集中型組織に移行するほうが有効であるばかりでなく、競争に勝つための不可欠の条件である。

 このような新しいアプローチを理解している企業(ホンダ、アップル社、メルク社等々)は、製品を中心に戦略を構築するのではなく、数種類の高度に発展したサービススキルについての深い知識を中心に戦略を構築してきた。こうした企業では、可能な限り簡素な組織が維持されている。企業組織は無駄な装いを脱ぎ捨てており、自社のコアスキル(核となるスキル)で可能な最大価値を顧客に提供するのに必要な基本的要素だけを身につけている――そして、その他のほとんどの部分は外部を活用している。その結果、経営者は自分が最もよくできることに焦点を集中し、混乱を回避し、自社の組織資源と財務資源を旧来の戦略で可能な以上に活用している。

サービスの力

 自社の戦略を客観的に再検討するためには、経営者は、製造(すなわち商品の生産)についての思考態度、つまりそうした生産を可能にし、効果的にしているサービス活動と製造を分離して(しかも製造活動をサービス活動よりも上位にあるものとして)考える思考態度を打破することが必要である。現実にほとんどの企業は(メーカーもサービス業企業も)広範なサービス活動を行っている。アメリカの雇用・生産統計には、この事実が明瞭に反映されている。国内企業のコスト指標にも同様の事実を見ることができる。分析の結果、ほとんどの製造業企業の価値連鎖がそれを示している。

 最初にいくつかの指標を検討してみよう。アメリカの労働者のほぼ76%が一般にサービス業と考えられる産業――通信、運輸、ヘルスケア、卸小売業、金融サービス、専門サービス――に従事している。製造業で働いている労働者のうち65%から75%は、サービス業務に従事している。そのサービス業務の範囲は、研究、ロジスティックス、メンテナンス、製品設計、工程設計といったもともと生産に関連した活動から、会計、法務、財務、人事などの間接的スタッフサービスに至るまで様々である。全般的に見れば、大部分のアメリカ産業の全コストの4分の3以上がサービスにかかわるものである。

 価値を供給する上でのサービスの役割は、かつてなく重要なものになっている。製品価値のほとんどが、原材料を有用な形態に変換する生産プロセス(例えば鉄鋼を自動車ボディーに変換したり、穀類をオートミールなどの食品に変換するプロセス)で付加されていたのは、それほど古い時代のことではない。しかし今では、付加価値は、技術的改善、装飾的な外観、製品イメージ等々のサービスのみがつくり出すことのできる属性から生み出される部分が大きくなっている。

 こうした状態が生じている1つの理由は、システム化と自動化によって生産コストが一貫して低下してきた結果、ほとんどの企業の価値連鎖において生産コストの相対的重要性が減少してきたことにある。例えばパソコン産業では、パソコンという実物の"箱"の生産は利益率の低い活動であり、ソフトウエアに関する活動やサポートサービス活動が顧客にとっての製品価値の大部分を創出している。ますます多くの企業がこうしたパソコン産業と同じ状態に置かれ始めている。実際、非製造サービスは、(ほんのいくつかの例を挙げれば)医薬品や衣料品、食品、スポーツ用品などの企業で極めて顕著な存在になっており、こうした企業を製造業に分類することが疑問にさえなっている。

 例えば医薬品産業では、R&Dによる医薬品開発、注意深く構築された特許や法的な障壁、臨床試験や規定に基づく承認、効果的なプロパーシステムや供給システム等々のサービス活動が、基本的に価値を付加する活動になっている。生産コストは医薬品の価値の微々たる部分でしかないために、大手の企業の戦略は、価値連鎖のうちの特定の活動に焦点を当てたものになっている。例えばメルク社は、研究開発に基づく特許で強力な地位の確保に焦点を置いており、一方グラクソ社は、医薬品の承認を迅速に得ることをターゲットにしている。

 世界最大の電子機器下請け企業であるSCIシステムズ社は、目立たないが最適の事例である。SCI社は、通信機器やコンピュータ、先進的な計測機器など多様な製品を生産して、付加価値再販売業者に販売したり、OEMで供給している。同社は、生産プロセスと基幹部分ではないサービスについて可能な限り多くの部分を外部に任せることによって、競争の激しい業界で年率35%の成長率を示している。経営者は、同社の資源を設計・開発、ロジスティックス管理、品質管理、同社独自の専門能力(回路基板の両面に部品を装着する低コストの組み立て技術)に集中的に振り向けている。外部活用によって軽減可能になった管理コスト構造(7000人の従業員に対して130人の管理者)のおかげで、SCI社は、競争相手やさらには顧客自身よりも低い管理コストで、フレキシブルに、迅速に、正確に市場に対応することができるのである。

 新しい技術によって、企業内部を変えることとしてのサービスの力が強まったことに加えて、サービス企業の相対的な力もまた著しく大きくなった。こうした状況は、メーカーとサービス企業のいずれにとっても、重要な機会と挑戦課題をもたらす。