技術力と競争優位

 日本のある精密ダイスメーカーについての話から始めよう。このメーカーは民生用電子機器産業を顧客としている――しかしその名前はそれほど知られてはいない。この小さなメーカーは、過去5年の間に、日立製作所などの巨大エレクトロニクス企業や高度に専門化した下請け企業のグループと自社を結ぶネットワークに適合する仕組みをつくり上げた。

 日立の設計者は新しい部品のスケッチを作成すると、FAXでこのダイスメーカーに送付する。ダイスメーカーのエンジニアは、このスケッチを検討して、CADシステムを使って数時間のうちに新しいダイスの詳細設計図を作成する。次に、このダイスメーカーは、自社で製造するかあるいは下請け業者に下請けに出すかを決定する――下請け業者すべてについてスキル、生産能力、仕掛かり中の仕事が記録されている。どちらかといえば下請けに出すほうが多いが、その場合には業者を選定して、詳細設計図をFAXで送付する。このとき、素材と応力についての補足情報も一緒に送る。下請け業者は、先進的な数値制御工作機械を使って、これもまた数時間のうちにダイスを加工する。日立では、数種類の部品用のダイスを1日のうちに入手することはごく当たり前のことである。つまり朝スケッチを出せば、午後にはダイスが完成しているわけである(1)。

 このダイスメーカーは、私が科学技術のビジネス世界への影響について考える際に必ず思い浮かべる企業である。現在では競争は厳しく、国際的な広がりを見せ、生き残りをかけたものになっていることは周知のことである。しかし、技術との厳しい競争の中で努力しているこのダイスメーカーのような小企業に出合うと、我々が新しい時代にいることを認識することができる。新しい時代を特徴づけるトレンドは、次の5つである。

□膨らみ続ける科学知識の世界的な普及

□地球規模での競争者数の顕著な増加

□細分化された市場と顧客の志向変化

□多様で変化する生産技術――その結果としてのフレキシビリティと即応性の増大

□あらゆる製品における関連技術の範囲の拡大