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未来の工場は、コンピュータやロボットや何でも自在にできる機械が単純作業をこなすような場所ではない。それはむしろ現在の工場であって、金と頭さえあればどんな製造会社でも建てられるものである。ということは、どんな競争相手でも建てられるということである――だからこそ優れた製造管理だけで競争に勝つことがだんだん困難になってきているのである。コストの低減や品質向上や品揃えの増加などはポーカーでいえばショバ代みたいなもので、企業がゲームに参加するために払う賭け金である。ほとんどの製品は、たちどころに簡単に模倣できるが、デザインや生産プロセスをどんなに自動化しても、それだけで競争相手に決定的な差をつけることはできない。だれが勝ち、だれが負けるかは、企業の勝負の仕方によって決まるのであって、単に製品やプロセス技術によって決まるのではない。それらは勝負に参加できる資格を与えているだけだ。
それゆえ、次世代まで続けて成長する製造業者は、各種のサービスを製品と組み合わせ、顧客のニーズを本当に隅から隅まで予測し、それに応えることによって、競争しようとするだろう。さらにこうしたメーカーは工場自身を顧客の獲得と維持のための活動の本拠地に変身させるだろう。これらの活動は現在は工場とは別個の、しばしばどこか遠く離れた組織の中で行われているものである。生産労働者と工場の管理者たちは、顧客と直接かつ継続的に接触することになるので、顧客との新しい関係をつくり出し、それを維持することが可能になるだろう。簡単にいえば、製造部門がその事業を包み込む皮質になるだろう。今日の融通のきく工場が、明日はサービス・ファクトリーに変身するだろう。
工場の役割の変化
約200年前、馬車が主として職人の手でつくられていたころ、最も繁盛した職人というのは決まって最も融通のきく職人だった。彼は技術屋――製作者――であることに誇りを持ってはいたが、彼の繁盛の秘訣は、大事な折々にはお客と話し合う意欲と能力があったことだと言ってよい。話し合うことにより、商売成立前に、お客が何を要求しているか、どんな規格がお客を満足させるのかはっきりつかむことができた。つくり始めてからは、必要に応じ注文の品物に対し、いかような修正も加えることができた。また納品後は、どのような点がうまくいっているか(あるいはいっていないか)、それから保全や補修や取り換えについて何を困っているかを知ることができた。
マスプロがオーダーメイドの職人芸にとってかわったのは、顧客が高価格の個性的な商品より規格品のほうを選ぶようになったためである。その結果、分業を通して仕事は急速に区分化されてきた。職人芸(すなわち製造業)は、新製品開発とかデザインのような上流部門のみならず、販売とか購入後のアフタサービスのような下流部門の活動と切り離されてしまった。製造部門は次第にフィルターを通して、すなわち機能的にも物理的にも生産現場から分離された各部門を通して、だんだん多くの情報や指示を受け取るようになった。かくて、製造部門の管理者たちから、俺たちに仕事を持ち込んでくる連中はちっとも仕事がわかっていないとか、連中は細かな点や問題点や技術的な可能性については意に介していない、という苦情が聞かれるようになったが、これも当然の成り行きだった。
その後何十年もの間、企業は成り行き任せだった。最近になって日本との競争でどこの製造業もプレッシャーをかけられているので、各メーカーは必死になって労働者を教育し、上流部門と工場の作業との垣根を取りはずすべく着実な努力をしている。どこでも製品デザイナーと生産エンジニア間及び研究開発担当者と生産現場の品質管理マネジャー間の部門間のコミュニケーションを奨励している。
このような製品にかかわるイノベーションを促進し、生産効率を上げるための創造的努力は確かに必要であり重要だった。しかし、それだけではもはや十分とはいえない。今日では下流部門の諸活動を工場の諸作業にも連結しなければならない。工場で働く人たちが販売部隊やサービス・テクニシャンや消費者を支援する手段をますます持つようになっている。この支援は大いに活用すべきであるし、実際活用されるだろう。企業の競争は、いかに製品をつくるかから、製品をつくる前にも後にもいかに十分に消費者に仕えるかに移りつつある。
製造業におけるサービス
アメリカの最優良企業の何社か――ヒューレット・パッカード、アレンブラッドリー、キャタピラー、フリトレイ――では、製造業の競争の中でサービスというものの新しい役割をその活動の中に反映させた工場をすでに運営している。しかし、どこの工場も完全なサービス・ファクトリーにはなっていない。それはまだ何年も先の話だ。これらの工場が実施している上流部門と下流部門の活動の範囲、及び生産労働者と消費者のかかわり合いの度合いの中に、将来の方向が示されている。
製造業にとってのサービスとは、当然のことながらその製品を中心に展開される。すなわちその中心は製品のデザイン、特徴、耐久性、修繕可能性、配送、取り付けの容易さと使いやすさなどである。過去のどんな旧来の工場でも何らかのサービスは提供したのだが、彼らのサービスの概念は狭義だった。昔ながらの工場管理者たちにとってサービスとは、絶対に納期に遅れない、という程度のことでしかなかった。工場は注文をタイムリーに完成させるようにとか、納期上の問題は事前に連絡をするようにとか、運搬しやすいようにまた破損しないように品物を包装せよとかを、ロジスティックスや流通担当者からうるさく言われた。顧客は生産スケジュール表上の数字にすぎなかった。



