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リンダ・ユーは、インダストリアル・ケミカルズ、ピグメンツ・ディビジョン(顔料事業部門)のオフィスに近いお気に入りのレストランの窓際のテーブルを予約しておいた。同ディビジョンのマーケティング担当バイス・プレジデントであるリンダは、3年前のWP-88の発売以来、この店で豪奢な金曜日のランチを楽しむことが病みつきとなっていた。
多岐にわたる様々な先端製品(住宅用ペイント、産業用コーティング、繊維用染料、印刷インキなど)に用いられる白色顔料にしてカラー・エンハンサー(訳注:色彩向上剤)の特化製品であるWP-88は、在来の競合製品に比べあまりに優れていたことから、今日では米国における高性能白色顔料市場を支配するに至っていた。1986年に下りた特許は、この製品の製造プロセスとその米国内使用をカバーするものであった。ともかく、この顔料はインダストリアル・ケミカルズの歴史上、最大のサクセス・ストーリーの1つであった。そして、4年前、年間売り上げ3000万ドルだったピグメンツ・ディビジョンも、今ではWP-88の収入だけで2億ドルを生み出すに至っている。
37歳のリンダは今や空に駆け上る星であり、自分の地位をエンジョイしていた。彼女はとりわけ、今後数年にわたりインダストリアル・ケミカルズがとるであろう方向に影響力を与えられる機会を手にしていることがお気に召していた。当面、彼女は顔料市場への新たなアプローチに当たっての盟友を探しており、今回のランチも、リクルートの手始め、自分のアイデアの試し運転として計画したものだったのである。
リンダがランチに誘ったのは、48歳のケミカル・エンジニアで勤続17年のベテラン、ヒュー・スワンだった。彼はそのキャリアの大半を、同ディビジョンの研究室で黙々と働いてきた人物である。だが今ではヒューは、リンダをも上回るスターであった。彼は、WP-88の開発に当たった研究チームのチーフを務めてきたのだから。大幅な昇給とボーナスもすでに獲得し、研究開発担当バイス・プレジデントという待望の昇進も手に入れていた。
「ヒュー、料理はおすすめのがあるんだけど……」とリンダは言った。「子牛肉のホワイト・ペパー・ソースあえっていうのが、きっとあなたの気に入ると思うわ。まかせてくれる」
「おまかせするよ」とヒューは答えた。
「最近は白いものなら何でもごきげんになるんでね」。2人は笑った。
「ところで、今日、ランチに誘ったのにはわけがあるの。私はこのところWP-88の将来についていろいろと考えてきたんだけど、率直に言って、気になり始めているの。これからも長い間業界のリーダーであり続けることは確かでしょう。わが社の製品、工程特許がそれを保証してくれるでしょうし。でも、栄光の日々はすでに終わったのよ、ヒュー。50%、60%なんて成長はもう望めそうにないし、事実、今年の伸びはよくても20%と私たちは見ているの。3年以内に売上げは頭打ちになる可能性もあるし」
「もちろん、それはあり得るだろう」とヒューは認めた。「市場はすでに飽和に達しているからね」
「そうね、完全な飽和というわけではないけど。でも、この予測に賛成してくれてうれしいわ。ポイントは、今や私たちの考え方の幅を広げるときだってことね。もう、WP-88が限りない希望だったころのようなことをいつまでも続けていることはできないってこと。このディビジョンには提案すべきことがもっとたくさんあるし、少なくともそれをやるべきだと私は思うの」



