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田淵義久氏は1985年に、現在世界最大で最高の利益を上げている金融機関として知られる野村證券の社長に就任した。野村證券は日本国内に500万人以上の顧客を持ち、4300億ドルを上回る資産を運用している。1988年度の営業収益は80億ドル近くに上り、純利益は17億ドルを超えた。これは実に、ベア、スターンズ、メリル・リンチ、モルガン・スタンレー、ペイン・ウエバー、及びソロモン・ブラザースの利益を合わせた額を上回っている。要するに、世界の民間金融機関の中で、野村證券に比肩し得るところは1社もないのである。
セールスマンを皮切りに、今日まで33年間営業畑一筋に日夜励んできて社長の地位に上りつめた田淵氏は、積極、猛烈経営方針を貫く野村證券の申し子といえよう。社内の伝説によると、投資家に株式と債券を売るために、彼は毎日100人にセールスコールを行い、週に1足靴を履きつぶしたという。また、彼が支店長になると、その店は野村證券の国内支店の中で、収益No.1の座を占めるに至った、という記録も残されている。あるとき、野村の営業マン、あるいはマネジャーとして学んだ最も重要な教訓は何か、と尋ねられると彼はこう答えた。「ベストを尽くし、収益を上げ、評判を高め、競争相手に勝つ、それがどんなにすばらしいことがわかったことです」。日本の標準では53歳という驚くほどの若さで、野村證券の社長に就任したことが、彼の業績の偉大さを如実に物語っている。
HBRは最近、日本の富と世界の金融界のリーダーとしての日本の責任とのギャップによる緊張感について分析した(DHB1989年7月号R. タガート・マーフィー"日本はグローバル・リーダーになれない"参照)。そこで今回は、日本の金融資産を世界に流通する上で、主要な役割を果たしている野村證券のトップにスポットを当てることにした。田淵社長は、野村證券を単なる日本の証券会社から、グローバルな多角経営金融機関に発展させていく過程で、次のような数多くの問題に直面するであろう。これらの問題は、日本が国として抱えている諸問題とも共通している。世界市場で野村證券にとって、適切で最も効果的な役割は何か。どのようなリーダーシップを発揮すべきか。その巨大で成長を続ける経営資源をどう配分すべきか。
このインタビューは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディア研究所の客員教授マイケル・シュレージが東京の野村證券の社長室に田淵社長を訪れて行ったものである。シュレージ教授はマンハッタン・インクに論説を寄稿しており、ワシントン・ポストには、テクノロジーと金融問題をテーマとした記事を、4年間にわたって担当した。
野村證券とグローバル化
HBR(以下略、ゴシック部分は質問部分):日本は世界一豊かな国であり、野村證券は日本で最も有力な金融機関です。そこで、野村證券は世界でどのような役割を果たすべきだとお考えですか。
田淵義久社長(以下略):世界経済と金融の面で、日本の果たす役割がこれほど重要になったことは、いまだかつてありませんでした。野村證券の強みは、日本国内だけでなくアジア全域に影響を及ぼしている点です。野村證券は、世界で最も急成長を遂げているこの地域をリードする日本の中心的存在です。もし、わが社がアジア地域の成長を支え続けることができれば、世界経済全体の健全な成長にもつながるわけです。これが世界の金融システムの中でのわが社の競争的立場だと思います。
言葉を換えていえばこういうことです。当社は巨大な研究機関を持っていて、アジア地域のあらゆる産業分野を調査している。また、香港とシンガポールには現地法人があります。しかし、ラテン・アメリカについては、私どもの調査能力が近い将来において、アメリカの証券界の水準を上回るとは思えない。またヨーロッパについては、ドイツ銀行より優れた調査ができるとは考えられない。しかし、だからといってわが社がアジア地域だけに、専念しているというわけではありません。
では、野村證券はグローバル化を目指しているのですか、それとも国際的な活動をしている日本の会社なのですか。
今、グローバルな関係を持つ地域経済や、地域的な証券会社が、各地に出現しています。かつてはグローバリゼーションとは、単一の統合化された金融市場だと考えられていた。そうなれば結構なことだし、もしすべての人々が規制撤廃や標準化されたルールについて同意すれば、単一の統合化された市場が実現するかもしれません。しかし実際のビジネスの世界では、グローバリゼーションは単一でも、統合化されたものでもないのです。当社の経営戦略と組織構造は、野心だけではなくこの現実を反映したものでなければならない。
わが社の基本戦略については、これまでと変わりありません。グローバリゼーションとは、ジグソー・パズルをはめ込んでいくようなものなんです。野村證券は非常に規模が大きく、巨大な資源を持っているかもしれないが、世界中どこでもすべて自力でやれるわけではない。そこでわが社は、各地の市場でトップクラスの"ブティック"(専業会社)と、積極的に提携してきました。つまり、それぞれの分野で最高の会社に投資し、協力するという方法です。M&Aについては、ワッサースタイン・ペレラの手腕を疑う者はないでしょう。同様に、大規模な商業用不動産の取引について、イーストディル・リアルティーの右に出る会社はありません。バブコック・アンド・ブラウンは、リース業については第一級という定評があります。このような専業会社との提携関係を通じて、あたかもジグソー・パズルを組み立てるように、名実ともにグローバルな金融サービス会社を構築できる。わが社は今後もこの戦略を推進するつもりです。



