ニューヨークの主要銀行が本社において、情報技術上の意思決定を下す必要があった。ロンドン事務所では、業務拡張に伴い、新規のコンピュータシステムを必要としていた。ロンドン事務所の技術者たちはその業務を遂行するためには、特定メーカーのものしか適さないと確信していた。一方、ニューヨークの情報システム担当者たちは別のメーカーのシステムが最適な選択であるとしていた。

 何カ月もの間、技術担当マネジャーはメーカー選定がままならず、とうとう役員による経営方針委員会に上申した。ニューヨーク並びにロンドンでは、双方それぞれの立場を「命令セット機構」、「ファイルシステムの効率性」、「トランザクションのスループット率」等の技術用語でまくし立て、委員会はそれに困惑し決定を引き伸ばしてきた。ロンドン事務所長は、この膠着状態が業績拡張を拒んでいるとして不満であった。

 それでは、方針委員会はどのような方法でメーカーを選定すればよいのであろうか。

 今までは、この種の技術上の決定には、経営者は自分のところのコンピュータ専門家に任せてしまい、他の仕事をしていればすんでいた。ところが、今日では経営者は情報技術(Information Technology=IT)に関する意思決定をないがしろにすることは許されなくなってきた。ITは組織構成より始まり、製品販売戦略に至るまで経営全般に影響を及ぼしている。

 このような重大な決定を他に委任することになれば、ITに対する投資が会社の経営戦略強化を助けるどころか、全く役立たずになるにちがいない。技術専門家たちは、えてして経営全般の方向について無頓着なものである。

 一方、経営者たちは、コンピュータをあまり知らないことが多い。アメリカンホスピタルサプライ社やアメリカン航空社が行ったような情報技術戦略の方法に興味を持つかもしれない。しかし、多くの経営者は残念なことに彼らの要望を、具体的なIT投資で実現する方法を知らない。さらに、何を問うべきかもわからず、技術用語はまるで外国語と変わりないように思えるかもしれない。そうして彼らは情報技術(IT)決定を後に延ばしたり、一切避けようとさえする。

 しかしITに関する決定を延期したり、間違えたりすると重大な結果を引き起こすもとになる。会社は競争上優位の機会を逃したり、生産性の低いITを導入してしまい、後でもとの正常な状態に戻すのに多額の投資をするような無駄をしなければならなくなる。

 ある工業品メーカーは、苦い体験を通じてこの重大さを知ることになってしまった。経営戦略の一貫として経営者は、複雑な管理上の混乱を取り除くために、製品取り扱い流通業者の数を削減することになった。一方で、ハードウエアとソフトウエア選定を各部門の情報システムグループに委任したが、彼らは経営者の狙いがわからず、経営者には彼らがどのような決定をしようとしているか、わかっていなかった。

 経営者が、受注処理システムを部門間で共有すれば流通業者の集約が容易に行えると気がついたときはすでに手遅れだった。部門では、それぞれ相互に融通のきかない仕様のシステムを購入したり、アプリケーションの開発をすませていた。流通業者が全製品を取り扱いできるような受注システムを再構築するまでには何年も待たなければならないはめになってしまった。

 ある大手化学会社も、似た体験によって事の重大性を知ることになった。その技術担当マネジャーは製品担当マネジャーと検討を重ねた結果、4つの製品グループ情報を統合して1つの顧客データベースを構築すれば、種々の注文を統合管理でき、しかも横断的な販売が可能となる最適な方法であると考えていた。