企業活動の中で新製品の開発と生産ほど、その成功が嘱望され、またその過程で楽観主義が正当化される活動はほかにはない。自動車や家電製品などの成熟企業、あるいはコンピュータなどのもっとダイナミックな企業を問わず、企業幹部は新製品を、競争の中で飛躍するチャンスをもたらすものとして正しく認識している。

 理想的には成功した新製品が業界標準、つまり他社に対する参入障壁となる標準になるか、あるいは決定的に新しい市場を開くのが望ましい。ソニーのウォークマンが好例である。また新製品は組織にとっても望ましい。これによって、まだ具体化されていない研究開発上の発見の開拓が進み、技術者集団が活性化されることになる。トップ・マネジメントにとっても、新製品推進活動は、組織を再編し、販売戦力、工場、あるいは現場サービス・ネットワークからより大きな力を引き出す好機となる。また新製品は過去の投資を結実させるものでもある。

 だが最も刺激的なメリットは、恐らく最も抽象的な側面、つまり企業の再生と方向転換の点にあるといえよう。1つの新製品の導入がもたらす興奮、想像、そして成長は、企業内の最高の人々を鼓舞するとともに、新しい人材を募集する際の企業の魅力を高める。新製品は信頼と活力を確立する。

 残念なことに、新製品開発に期待できるこうした大いなる成果がすべて実現することはまれである。製品がこれを半ば実現しても、人間のほうが燃え尽きてしまう。その理由を解明するに先立って、もっと明白ないくつかの落とし穴を検討してみたい。

 1. 移動標的

 製品の基本概念自体が変化する市場を誤認している例があまりにも多い。あるいは企業が、流通チャネルに関して実態とかけ離れた判断を持つ。ときには、例えば当初は余分な装備を省いたストリップ・ダウン型(stripped-down)の製作から始めながら、途中でオプション付きに切り替えるなど、焦点に一貫性を欠いたためにプロジェクトにトラブルが生じることもある。プロジェクトの期間は長期化し、長期化したプロジェクトは例外なくその当初の目標からますますずれていく。市場の誤認の古典的な例としては、1950年代半ばのフォード・エドセルや1970年代末のテキサス・インスツルメンツ社のホーム・コンピュータなどが挙げられる。アップル社のMacintoshパソコン・ラインのような極めて成功した製品ですら、出だしは非常に厳しいものとなる可能性がある。

 2. 製品差別化の不足

 このリスクは、設計者が消費者のニーズに対して、可能な限りの代替案を検討していなかったときにとりわけ高くなる。その組織が1つの構想をあまりに早く固定してしまうと、局面の変化を分析に組み入れることをしなくなる。その結果、市場が枯渇してしまったり、開発者の新製品が市場に登場する前に、鍵となる技術が大きく広まってしまうことがある。例えばプラス・ディベロップメント社は、1年半の開発努力の後、PCの拡張スロットにぴったり挿入できるHardcard®ハードディスクを導入したが、同社ではこの製品は完全な新製品であり、ライバル企業を少なくとも9カ月リードしているものと考えていた。だが、Hardcard®が業界の展示会で発表された5日後にはライバル企業の1つから競合機種のプロトタイプが発表され、3カ月もたたないうちに、そのライバル企業は新製品の出荷を始めたのである。

 3. 予期せぬ技術的問題

 計画の遅れやコスト超過の原因を探ってみると、自社の技術力の過大評価や、単にその深さや資源が不足していたという事実に行き着くことがしばしばある。基本的な発明が十分完成していないにもかかわらず、製品開発プロジェクトがスタートする前に設計者の領域に持ち込まれてしまうと、プロジェクトは途中で遅延や中断に見舞われる可能性がある。筆者たちの知っているある産業用制御装置メーカーはこの双方の問題にぶつかった。この会社ではある部品を金属からプラスチックに変えたのだが、結果的には、自社の製造工程が必要な耐久度を維持できず、さらにサプライヤーも安定した品質の原材料を供給できないことがわかっただけであった。

 4. 各部門間の連携不足

 組織のある部門が他の部門に対して、非現実的な、ときには不可能とさえいえる期待を抱くことは珍しくない。例えば自社の工場では生産できないか、少なくとも一定水準の低コストと高品質が維持できない製品を技術部門が設計することがある。同様に、マーケティング部門の確立された流通チャネルや販売アプローチを活用できない付加機能を設計して製品に取り入れることもある。製造条件に関して計画する際、製造部門は新製品のミックスには変化がないと想定するだろうし、一方マーケティング部門では、製造部門が直前になってそのミックスを大幅に変更することがあり得ると誤った考えを持つ。筆者たちが出会った最も驚くべき連携不足は、ある航空宇宙メーカーの例で、この会社では製造グループが航空機の翼幅が入らない組み立て工場を建ててしまい、結局生産が全くできなかった。

 このように、新製品が失敗する原因は、企業が最も可能性の高い市場や流通チャネルを誤認していたり、自社の技術的能力やその製品の技術的難度を適切に評価していなかったことによる場合が多い。リスクを完全に排除することは不可能だが、新製品開発のごく初期の段階でやっておくべき最も重要なことの1つは、いうまでもなくマーケティングと製造、研究開発など、プロセスに関与するすべての部門相互のコミュニケーションである。製品はプランニングの欠如により失敗し、プランニングは情報の不足で失敗する。

 新世代の製品の開発は、いわば未開地に旅するようなものだ。だれも地図なしで旅立とうとは夢にも思わないだろう。もちろん、旅の目的を明確に持ち、必要な装備がすべて、きちんと整備されてそろっているかを確認しようとするだろう。しかしいったん出発してしまえば、だれもが読み取ることができ、議論の前提となり、代替コースを立案する基礎となる地形図が必要となる。どこを通ってきて、今どこにいるかを知るのは目的地に着くための不可欠な条件である。