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□販売を成功させ、大顧客と密接な関係を結ぶ責任を担っている顧客マネジャーの、同僚との会話に耳を傾けてみよう。「僕は、フェニックスにいる地区マネジャーに電話して、この大顧客のために重要な提案をまとめていることを話し、やつの地区にある顧客の出先との交渉を手伝ってくれないかと尋ねたのさ。やつはいやいやながら承知したものの、まだ僕の手元には何の報告もないし、ここ最近2回電話したんだが、何の返事もよこさない。全く、あの手合いときたら……」
これに対する地区販売マネジャーの考え方はこうだ。「こっちだって、毎日一定の時間と資金の範囲内で、大勢の人間と会わなくちゃならないんだ。しかも、他人の販売を手伝ったところで、金にも名誉にもならない。だからやらないまでさ」
□ある大きな電気通信会社の全国顧客担当副社長の声を次に聞いてみよう。「当社は、ゼンブラ社(ある巨大な多角経営企業)と年間300万ドルほどの取引をしているが、今後の可能性と比べると、これはとるに足りないほどの額だ。ゼンブラ社の戦略の大部分を占めるのは、遠距離通信網であって、同社は過去10年間に何百万という通信網を地下に埋設した。先週、同社の情報システムのボスが、2つの地域にいる当社のセールス部員について苦情の電話をよこしたのだが、彼らはゼンブラ社の2つの部門に値引き販売をやろうとし、それにほとんど成功していたんだ。このボスが言うには、効率を高めるために通信網を高度に利用するという会社の電気通信戦略が、そのために挫折したらしい。同社の通信網より安く売りこもうという企ては、同社の組織内にひどい摩擦を起こしたんだ。そして、あえて言えば、わが社でも同じだった」
□次は、顧客の20%から売り上げの80%を得ているという評判の、ある会社の販売幹部(女性)の言葉である。この女性は、大顧客の一部に設備を販売しており、一方、別の販売部門にいる部員が、同じ顧客(それのみとは限らないが)に対して関連消耗品を供給している。「顧客の多くは、設備と消耗品の購入を統合したいと望んでいますが、それは生産過程に対する影響力が大きいからなんです。しかし、普通、設備の販売は、消耗品の販売より高額な取引ですし、ずっと頻度も低い。ほとんどの場合、顧客の組織の中のいくつもの部門の、大勢の人との接触を伴うものです。だから、一層多くの訪問販売と長期の販売サイクルが必要になりますが、そればかりでなく、販売後も様々な納品その他のサービス要求が出てきます。私は、消耗品部門の多くの仲間とも会いますが、それは私たちがすべての顧客を共有しているとはいうものの、しばしば共有していない、あるいはそこが明確でないものが、我々個人の目標だからです」
□最近行われた会社の年次販売会議に関する、ある販売マネジャーの言葉。「美しいリゾート地、うまい食事、そして天気までがすばらしかった。わが社の販売・マーケティング担当の筆頭副社長は、年次のあいさつでチームワークについて述べたんだが、もちろんそれだけでは十分とはいえないよ。チームワークが日常業務の一部となるまでは、思い付きで発破をかけてみても、おためごかしにすぎない」
過去20年間に、多くの会社において販売は激変した。伝統的な販売とは、1人の精力的で粘り強い個人――アーサー・ミラーの印象的な表現によれば、「にこやかな笑顔とぴかぴかの靴をはいて、どんなへんぴなところへも行く男」――の天職であった。現在の販売は、統合的なアプローチを要求する顧客に合わせ、製品ラインの枠を超えて(製品はいろいろな部門でつくられ様々な場所で販売されることが多い)、その活動を調整しなければならない、男女混成チームの職場であることが多い。しかも、公式の販売チームが存在しない場合でも、調整は必要であることが多いのは、この論文の冒頭に掲げたビネット(小品文)の示すとおりである。
合併・吸収、その他の企業環境の変化のため、ほとんどの業界の販売会社は規模相当の複雑な購買条件を要求する大型の顧客を、一層重視せざるを得なくなっている。例えば、伝統的なスーパーマーケットは、1980年には全米小売食品売上高の約75%を占めていた。それが予測では、1990年には25%しか占められない。残る売り上げのほとんどは、「スーパー・ストア」「コンビネーション・ストア」「ウェアハウス・ストア」が確保するであろう。このようなチェーン店は、(洗練された情報システムを背景に)必要とする購買力を蓄積し、各種の販売部門を通じて複数の製品を納入している業者に、その力によってよりよいサービス、より安い価格、調整されたアプローチを要求するのである。
同様の傾向は、多くのインダストリアル商品部門でも明らかに見られ、ここではジャスト・イン・タイム(かんばん方式)在庫システムのおかげで、顧客は多くの販売地点における販売業者セールス部員の、価格・支払い期日と条件・納入・場所がらに適した配慮などの違いについて知ることができる。国際的には、ますます多国籍化した、ほとんど地球規模の顧客が、多くの販売組織に同じような要求をつきつけている。しかも、距離の大きさ、通貨の違い、売り手販売部門の文化的な違いのため、こうした重要な共有顧客の管理が、一層複雑さを増している。
このような状況下にあって、販売の成否は、販売地点の範囲、購買力の影響、製品ライン、社内組織の壁を打ち破って、いかに効果的に資源を結集できるかにかかっている。このような共有顧客を抱えている状況では、調整のあり方が、会社の収支比率、これらの顧客との現行取引を維持し、新しい取引を開発する能力、販売部門の士気や管理に影響を及ぼす。しかしながら、セールス部員の発言が指摘するように、調整は容易なことではない。我々が調べたインダストリアル製品の販売会社4社についてみると、共有顧客に関係のあるセールス部員の11%しか同じビル内に配置されておらず、43%は別の販売地区に、7%は違った国に配属されていた。これほど分散していると、時間・費用・スケジュールの面で調整がうまくいかないのはもちろんだし、多くの顧客が一層多国籍化していくにつれ、問題はさらに悪化するように思われる。しかも、大顧客を開発するのには長い期間がかかるというのに、セールス部員の4分の1は、顧客担当期間が5年以下であった。「顧客チームに円滑な人間関係が生まれるまでに時間がかかるね」と、ある販売マネジャーは語ったが、顧客の継続性ということは、この会社のみならずその他多くの会社で繰り返し起こる問題である。
我々のインタビューに答えて、共有顧客に対するチームワークを向上させるのに最良の手段として、セールス部員が繰り返し言及したのは、コミュニケーションをさらに深めることであった。しかしながら、距離の隔たりとこれに関する報奨の点を考えるとコミュニケーションの向上――ことに例の好まれるやり方、会議――は、このような会社のマーケティング出費率を、我慢のならぬほど高めることだろう。調整による販売アプローチが高くつくことは疑いない。そこで、その他の高くつくビジネス資源と同じように、調整は最も大きな収益を生み出すところで採用しなければならない。



