マネジャーならだれでも、少なくとも直感的に、時は金なりということを認識している。そして多くのマネジャーは、チャンスとみれば時間(つまり、それによって表される金)を節約するための投資をしようとする。旅行代理店は、コンピュータ化を進めて顧客の予約を瞬時に確認できるようにしている。アパレルメーカーはジャストインタイム方式の工程を確立することによって、消費者の求めるものをつくり、過剰生産から生じるディスカウントを避けている。

 しかし、このような行動はそれほど大きな競争優位を生み出すわけではない。競争相手もすぐに同じチャンスを見いだして、大多数の競争相手がほとんど同じ行動をとるからである。しかしビジネスにおける時間の活用が、企業が自らの仕事を遂行し、顧客に奉仕する方法をシステマティックに変えることを意味するときには大きな関心の対象となる。その場合には、時間の節約は持続的な競争優位の源泉となるからだ。

 経営活動のサイクルを短時間で回すというファーストサイクル時間(以下、この概念をファーストサイクルと呼ぶ)は、経営戦略の新しいコンセプトではない。このコンセプトは、香港の仕立屋からマクドナルドに至るまで常にビジネスの成功の重要な要因であった。しかし今日では、より大規模で多様なビジネスを展開する経営者が、自分の会社で時間を管理する方法を急激に変えることによって、持続的な競争優位を獲得している。こうした会社は、競争相手よりも迅速な意思決定をし、新製品を速く開発し、顧客からの注文を速やかにデリバリーにつないでいる。その結果、これらの会社は独自の価値を市場に提供している。この価値は、急速な成長と利益の拡大に転換することができる。

 これらの優良トップ企業では、ファーストサイクル時間は2つの重要な役割を演じている。第1には、組織能力である。組織能力とは、会社の業務運営システムや従業員の態度の中に経営者が構築し、組み込むパフォーマンスの、ある水準をいう。基本的な考え方は、多くの企業につきもののボトルネックや遅れ、誤り、在庫なしに仕事を遂行する組織を設計することである。大規模組織で情報や意思決定、原材料の流れが迅速になればなるほど、その組織は顧客のオーダーに迅速に対応することができるし、市場の要求や競争状態の変化に即応することができる。また、苦境に対処したり、調整にまわす時間も少なくすることができる。従って、プランニングや競争に勝つための行動への着手に多くの時間をかけることができる。

 第2に、ファーストサイクル時間は経営者のパラダイム、すなわち会社をどのように組織し、リードしていくべきか、競争者に対して真の優位性を得るにはどうすべきか、その方法を考える思考の道筋である。基本的な前提が単純であるため、それは強力な組織上のメッセージになる。時間が節約されることによって有能なマネジャーがすでに実行しようとしていたことをさらに促進し、支援することになり、極めて有効なものになる。

 様々な産業における競争発展の分析は、ファーストサイクル能力が全面的に優れた成果に結び付いていることを示している。生産に必要な原材料や情報にかかわる間接費が少なくなり、仕掛かり在庫としての集積がなくなる結果、コストが低下する。オーダーの受け取りから出荷までのリードタイムが削減されるため、顧客サービスが改善される。最初にすべてが正しく行われない限り、生産サイクルを全般的にスピードアップすることはできない。従って品質は向上する。迅速な新製品開発サイクルによって、企業は顧客とそのニーズに密着して動くことができるから、イノベーションが特徴的な行動パターンになる。

 ファーストサイクル能力の開発は簡単ではないし、一夜漬けでできるものではない。それには、会社の製品やサービスが顧客に届けられるまでの方法について根本的に再検討が必要である。それは組織の様々な部分が新しい、これまでとは異なった様式で一体となって動くことが必要であることを意味する。しかし現在、現状にとどまることのペナルティーは、変化のコストよりもはるかに大きい。

企業はすべてシステム

 ファーストサイクル能力をもつ企業(ファーストサイクル企業と呼ぶ)の人々は、自らを1つの統合システム、すなわち企業の顧客に価値を絶えず供給し続ける様々の活動と意思決定の連鎖の一部と考える。このような組織においては、個人は、自分の行動が会社の他の人々の行動とどのように関係しているかを理解している。彼らは、仕事がどのように流れることになっているか、時間がどのように使われることになっているかを知っている。

 小企業では、このような考え方は第2の天性といってもよいほどに習慣化している。ほとんどの人が製品や顧客に直接かかわるところで働いているから、価値の創造に集中し続けることに困難を感じていない。製品の出荷に至るまでの過程を阻害するような方針、手続き、活動、あるいは人物はすぐに発見されるし、直ちに必要な処置がとられる。

 しかし企業が成長するとともに、システムとしての組織の性格は隠されてしまうことがある。各機能が自分だけのニーズに焦点を合わせ、支援活動が増加し、専門家が雇われ、面と向かっての会話に代わって単なる報告が頻繁になるにつれて、距離はどんどん離れてしまう。製品やデリバリーのプロセスの基本的な要素がはっきりと見えるからそれが見えなくなるまでに長くはかからない。スムーズに結合したシステムとしての動きに代わって、企業は、利害関係者集団が衝突し、もつれ合う状態になる。この利害関係集団のそれぞれの要求と不一致は、顧客を失望させてしまう。困惑しきった顧客は、「あなたの仕事が何だろうと、私には何の関係もないよ。注文の品はいつ入るのかね」と不満を表す。