ファースト・ライン・ソフトウエア社の最高経営責任者(CEO)のフラン・コンクリン女史は、同社の主力ディストリビューター、マイクロチャネルス社のカリフォルニア本社に出張していたチャーリー・スミスの電話の声を再現しながら思案にふけっていた。スミスは、同社の新作ビデオゲームと、企業向けに新たに開発したグラフィックソフト"マスターグラフ"の注文を取りに、マイクロチャネルス社を訪れていた。商談を終えたスミスは、ファースト・ライン社の所在地ソルトレーク・シティ行きの便に乗る前に、空港から最高経営責任者のフラン・コンクリンに、電話で商談の概要を報告した。彼女の耳に残っているチャーリー・スミスの声は沈んでいた。

「チャーリー、何か困ったことでもあったの」

とフランは尋ねた。

「そうなんです、いろいろと。マイクロチャネルス社のビデオゲームの注文は好調なんですが、クレジットの枠をはずしてほしいというんです。マイクロ社の今回の注文は、ゲームが約20万ドル、マスターグラフが約25万ドルです。しかし、それにはわなが仕掛けてあって、わが社がクレジットの枠を広げなければ、注文を取り消すというんです」

「何ですって」

とフランは口をはさむ。

「マイクロ社にはこの四半期末で、40万ドルの売掛金があるのよ。もうすでに限度を超えているのに、全然払わないでさらに45万ドルを貸せというの。銀行は認めてくれないでしょう。マイクロ社はそれを知っているはずよ。とにかく、マイクロ社に現金がないなんて信じられない。立ち直るまで親会社のクローマー・システム社が資金援助をしてくれるものと思っていたけど。クローマー社は、せめてマイクロ社の借金だけでも保証してはくれないの」

「ビル・クレイトン(マイクロチャネルス社社長)は、無理だと言ってます。クローマー・システム社は、マイクロ社を買収して以来、子会社に対して独立採算制を導入するようにと、きっぱりと言い渡しているそうです。問題はそれだけではないんです。ビルはゲームの最盛期は終わったのではないかと心配して、私どもにもっと譲歩してもらえないかと、こんな条件を出してきました。つまり、ビデオゲームの新規の注文については5%、マイクロ社が抱えている在庫については、10%を値引きしてもらいたいと。ゲームを売るにはそれしかないと言い張るんです。おまけに彼は、ゲームの返品率を40%に引き上げ、マスターグラフについては、100%の返品率を認めてほしいそうです」

「とんでもない。クリスマスシーズンの話なんですよ。今回の注文はマスターグラフの資金源になるのをビルは承知しています。いったいどうなってるの。ビルは人が変わったみたい。4年前といえばこの業界では昔になるけど、当時もしビルに巡り会えなかったら、私たちはまだゲームを車に積んで、売り歩いていたかもしれない。でも、マスターグラフは全く新しいビジネスなんです。できればだれかほかのディストリビューターに、マスターグラフをビジネス市場に売り込んでもらいたいものだわ」

「ええ、でも馬を乗り換えるのはちょっと手遅れです」とチャーリーは言いながら、「あ、今出発の時刻を知らせています。では午後会社で。ジョー(ファースト・ライン社会長)にこのことを話されますか」と聞く。