タイプライター業界でもその他多くの業界と同様に、製品ライフサイクルは驚くべき早さで消え去っていく。機械式タイプライターのライフサイクルは30年あった。電子機械式のライフサイクルは10年ももたなかったし、エレクトロニクス式はすぐにワープロやパソコンにとってかわられてしまった。競争環境がこんなに急速に変化しているので、開発期間が死命を制することになる。どの会社も市場に参入してくる1つ1つの新製品に素早く対応していかなければならない。製品を市場に送り出す早さが、競争の核心なのだ。

 だからといって市場に素早く乗り出しても、選択すべき技術を誤ったり、顧客が望みもしないデザインをつくり出したのでは何の優位にもならない。実際、市場も技術も不確かなときには、できる限り選択を遅らせて、集める情報を増やし、目に入るものは何でも試し、ほとんど成功間違いなしという段階にきて初めて製品にとりかかるのにこしたことはない。これが特に当てはまるのは、航空機の製造やコンピュータ・システムの設計のように、会社の資源に占める開発予算の比率が大きい場合である。

 あっという間に過ぎ去ってしまう市場の間隙を取り逃がす機会費用と、誤った製品をひっさげて市場に参入するリスクとが、マネジャーの判断を真っ二つに引き裂いてしまう。しかし実務上でマネジャーの陥る危険は、こうした2つの相争う要請に引き裂かれることよりも、そんなさし迫った事態すらないかのようにマネジャーが振る舞う傾向があることだ。どんな流れに身を置いているのかを顧みることもなく、同じ開発戦略で対応することがあまりにも多過ぎる。仮借なき、煮えたぎるようなビジネス環境の下で、マネジャーは直観的にか反射的にか、新製品開発には「サイズは1つでだれにも間に合う」式のアプローチにしがみつく傾向がある。

 しかし1つのサイズでだれにでも間に合うはずはない。イノベーションを成功させる最善の体制づくりは、その場合の機会費用と参入リスクで決まるものだ。例えば市場の要求がはっきりしている上に競争相手の計画が丸見えの場合には、ユーザー・ニーズが定まらない場合や、中核となる技術がまだ確立されていない場合、また競争相手が予想以上に早くその製品に乗り出した場合に比べて、開発の焦点の置き所ははっきりと変えなければならない。

 IBMのパソコン開発の場合を考えてみよう。需要は年率60%で伸びると予測されていた。アップルやタンデムといった会社が市場開発を牛耳っていて、IBMが伝統的に抑えているオフィス市場にまで切り込んでこようとしていた。そしてもしIBMが遅きに失すると、回復不能のシェア喪失を被りかねない深刻なリスクがあった。機会費用は大きかったのだ。それと同時に、開発コストは恐らくおよそ1000万ドルにも達するとみられていたが、これはIBMの180億ドル前後にも上る自己資本に対する比率としては、とるにたらないものだった。開発のリスクも小さかった。市場の要求にもどうもつかみどころがない、というようなものはなかった(競争相手の製品のアピールから様子はわかっていた)。関連する技術も入手でき、習得するにせよ、買い入れるにせよ、困難はなかった。

 さてこれをボーイングの767型機開発と比較してみよう。727型機の取り替え市場はまだ具体化していなかったとはいえ、はっきり予想できた。製品開発にとりかかる決定を下し、シェアを獲得して市場を形成する時間は十分あった。言い換えれば機会費用は小さいということである。それに引き換え、767型機の開発費はボーイングの自己資本額に比較してかなりに上り、技術も顧客の好みもまだ全く固まっていないこととも相まって、参入リスクは多大なものだった。

 パソコンと767型機を同一に管理するのは意味あることだろうか。もちろんノーである。どんな状況の下でも役立つ開発プロジェクト管理のガイドラインがいくつかあるのは確かだ。リードタイムを短くし費用を切り詰めるのは、製品開発ではいつでも望ましい目標である。特に技術主導型製品に依存している会社や、技術の不連続性を乗り越えようと努力している会社ではそうである。また成功した開発プログラムから読み取れ、常識からいってもうなずけるのは、次のような点が常に役立つということである。

□社内開発プログラムの遂行には、プログラムごとに職能を横断したビジネス・チームを設置する。スピードが勝負の場合は特に必要。

□開発段階の全局面に必ずあらゆる職能から代表が出て一翼を担い、マーケティング、開発、製造間の調整に遺漏なきを期す。

□プロジェクト・スタッフの選定には厳選主義で臨み、プロジェクトを既存部門に任せない。