マーケティング委員会での否決

 パラダイス・フーズ社の新製品"スイートドリーム"担当マネジャーのビル・ホートンは、金曜の夕刻近く1人机に向かって、コンピュータプリントアウトを心配そうな面持ちで繰っていた。その内容については、彼はすでに暗唱できるほど知りつくしていたのだが、上司ボブ・マーフィーの返答を待っていたのだった。

 それは、すでに市場に定着している同社の冷菓デザート"ラトリート"を補完する新製品として、"スイートドリーム"の全国展開を認めるか否かという問題だった。このテーマについてマーケティング委員会は、すでに4時間余りも延々と討論を続けていた。

「やあビル、会えてよかった」と上司ボブ・マーフィーはぎこちなさそうに軽口をたたきながら、待ち構えていたビルの前にようやく姿を現した。彼は、デザートラインの新製品すべてを統轄するグループマネジャーである。

「ビル、いい知らせではないんだ。委員会の決定は『ノー』と出てしまった」

「信じられない」とビルは反論した。

「会議が長引いているので気にはなっていたけど、否決されるとは夢にも思わなかった。そんなばかな、1年半もかけてやってきたことを、どぶに流してしまうなんて」

「君の気持ちはわかるけど、委員会がなぜ否決したのか、そのいきさつを理解する必要がある。今回の決定は、私の記憶ではこの仕事に就いて以来、最もきわどいものだった。しかし、委員会としては、君のテスト結果を慎重に検討すればするほど、スイートドリームの収益性がなさそうにみえたのだ」

「収益性がないですって。私のレポートの付表B、ミッドランド(テキサス州)とピッツフィールド(マサチューセッツ州)のデータを見てくれたらよかったんです。これらの地域では、スイートドリームは26週後に3%のシェアを獲得している。試買率は15%、再購入率は45%です。全国的な成績がこれに近かったら、新製品導入コストは14カ月で回収できる。これに反論できるわけがないでしょう」

「私は君の味方だが、1票ではどうにもならなかった」とボブは弁解しながら続ける。

「やり手のバーバラ・メイヤーのことだけど、君も知ってるだろうが、彼女は最近ますます鼻息が荒くなってきた」