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業績評価システムは、何度か形は変えながらも、わが社に50年間以上存在してきた。給与と業績評価を関連付けていくという概念、すなわち優れた業績に対してはリワード(報償)を与え、(また雇用主側の願望ではあるが)水準に達する業績を上げ得なかった者に対しては翌年にはよりよい業績を達成するように、刺激あるいは激励を与えていくという概念に対して異論を唱える人は少ないだろう。また、期待される業績を上げ得なかった人達が退職してくれれば企業にとっても利益がもたらされる。
とはいえ、業績評価システムについてはいつの時代にあっても議論が絶えない。まず第1に、高い業績を上げている人達の多くは(大多数とはいえないまでも)、もっとよい給与がもらえるという期待と同程度に、自らの誇りあるいは他人をしのぐ業績を上げたいという願望により仕事に対して動機付けられている。さらに、業績評価で悪い成績が付けられると、水準以下の業績しか上げ得なかった人物の業績向上を促すことには結び付かず、むしろその人物のやる気をますます失わせてしまうことになりがちであると批判する人達もいる。さらに悪いことに、水準以下の業績を続ける人達はほとんど退職せず、その多くは同一企業にいつまでも居続ける。その上、業績はどのように測定すべきなのかという、時によって極めて処理しにくい問題が存在している。また、多くの管理者は、部下の業績の期待値と実際の成果を比較し話し合う、部下との1対1の義務強制的な業績評価面接を嫌悪感を持って受け止めている。
アメリカン・サイアナミド社でも、「プログレス・レビュー(業績向上評価)」と呼ばれる業績評価のシステムが、会社がそのシステムを真剣に再検討してみようと決断した1984年まで、ほぼ10年以上にわたり用いられていた。この業績評価は、業績に基づく昇給・給与管理のプロセスの一環として行われていた。
このシステムの再検討の動きは最高経営責任者(CEO)であるジョージ J. セラ・ジュニアが企業文化を変革していこうと提案した努力の中から始まった。ある調査で、サイアナミド社を表現する言葉として、社の経営管理者達は、「保守的」、「官僚的」、「人間尊重が十分でない」と表現していた。また彼らは、社の経営の一貫性や調査・研究に対する熱意に対して高い評価を与えていたが、同時に彼らは「もう少し柔軟な組織構造を持ち」、「創造的発想をさらに促し」加えて「企業としてもう少し積極的にリスクを冒していく姿勢を示してくれたら」と望んでいた。
このような願望に応えるべく、セラ氏は、従業員の労働の質の向上に資するプロジェクトのために「改善財源」として、百万ドルの予算を別枠で準備した。
そのとき進行していたプロジェクトは、それまで強い批判が集まっていた業績評価システムに対し、今までと違った方法を検討していこうとするものであった。まず医療研究事業部で試行され、成功が確認された後、類似の方法が全米に散る1万1500人の専門職系従業員の全員に適用されることとなった。
新しい方法は全社的には1986年以降に活用され始めたばかりであり、なお試行の段階にある。しかし、医療研究事業部に働く知識労働者に対して、この方法がうまく機能したという事実は疑い得ないところである。
上記の証明は、主に情報を解釈しながら生計を立てている知識労働者の集団が、その数、存在ともに重要性が増している状況から考えても、大きな意義を持つといえるだろう(現在全労働者のうち8人に1人が知識労働者に分類されるが、その比率はなお急速に増加している)。ところで、これらの専門職、準専門職が抱いている業績を認められたいという願望や昇進への欲求を満たそうとすると、企業の官僚主義的管理の望んでいる方向、つまり統一的で簡単に管理できる手続きを確立していきたいとする企業側の願望(業績評価がこの典型)と衝突を起こしがちである。
強い不満の存在
サイアナミド社の古い業績評価システムでは、専門職系の従業員のうち、その業績が最高と判断されると、"O"(抜群の業績)という評価を受け、昇給においても最高の昇給を受けることになっていた。他の多数の従業員は、次の2つの評価のいずれかを与えられた。すなわち"X"(いくつかの主要な領域で優れた業績)か、"R"(ほぼ期待された水準を達成した業績)である。1つの部門をとると、ほぼ20%の従業員がOの評価を受け、40%がX、他の40%がRの評価を受けることになっていた。また、それぞれの評価区分でさらに細かい評価をするために、プラス、マイナスの区別を付ける仕組みであった。例えば、Xを中心にX+とかX-といった区別である。第4番目の評価として"N"(改善の必要あり)の区分が存在したが、この記号が与えられることはまれであった。以上のように理論的には10種類の評価区分が存在していたわけである。
業績評価を管理する事業部の管理者達は、部下に業績評価を行う場合、ほぼ上記の20―40―40の比率のガイドラインを守る形で部下に評価を与えていた。この評価は昇給にも影響を及ぼした。それぞれの区分ごとに定められている範囲に基づき昇給額が決められたからである。最も多額の昇給はOの評価を受け、かつ自分の給与のレンジ(自分の属する職級の最低と最高の給与を定めた範囲)で低い位置にいる従業員に与えられた。ところで、上記のように昇給の決定を一定の比率に基づいて行うという方法を続けていると、長期間同一の評価記号を与えられてきた従業員達の昇給額が、ほとんど同一化されてくるという傾向を生みやすくなる。



