ディジタル・イクイップメント、ヒューレット・パッカード、AT&T、あるいはITTは、まさにこれを始めようとしている。フォードとGMはすでにこれを使っており、フォードだけでも50を上回る応用例を持っている。"ハウス・オブ・クォリティ(house of quality)"は、品質機能展開(quality function deployment-以下QFD)として知られるマネジメント・アプローチにおける基本的な設計ツールで、1972年に三菱の神戸造船所で初めて取り入れられた。トヨタとその下請け企業は、これを数え切れないほどの形で発展させている。ハウス・オブ・クォリティは、民生用電子、家電、衣料、IC、人造ゴム、建設機械、あるいは農業用エンジンなど、日本のメーカーで広く用いられ成功している。日本の設計者達は、これをサービスの分野、例えばスイミング・スクール、小売り店、さらにはアパートのレイアウトにまで応用している。

 プランニングとコミュニケーションの手順の組み合わせである品質機能展開は、顧客が購入を望み、かつ引き続き購入すると思われる商品を、まず設計し、次いで生産し、販売するための組織内の技能に焦点を絞り、これらを調整するものである。ハウス・オブ・クォリティの根底にあるのは、製品は顧客の願望と嗜好を反映した形に設計されるべきであり、従ってマーケティング担当者、設計技術者、及び製造スタッフは、ある製品の概念が初めて登場した時点から、密接に協力して活動すべきだという信念である。

 ハウス・オブ・クォリティは、機能別組織を横断したプランニングとコミュニケーションのための手段を与える一種の概念地図である。異なった問題と責任を抱えた人々が、このハウス上の格子に明確に現れる事象のパターンを参照することにより、設計上の優先順位を徹底的に検討することができる。

設計にはなぜ困難がつきまとうのか

 デビッド・ガービンは、消費者にとって品質は数多くの属性から成り立っており、これらすべてを同時に満足させる製品を設計するのは1つの大きなチャレンジであると指摘している(1)。戦略的な品質マネジメントは、消費者の修理の手間を省くという以上の意味を持つ。むしろ企業が顧客の経験から学び、そして顧客が期待するものと、エンジニアが合理的な範囲で製作できるものとを、調和させることを意味する。

 産業革命以前は、生産者とその顧客は極めて近い関係にあった。マーケティング、エンジニアリング、それに製造は統合、それも1人の個人に統合されていた。騎士が鎧を欲しい時は武具屋に直接話し、武具屋は騎士の希望を製品の形に翻訳する。両者は、材質――板金の鎧にするか鎖の鎧にするか――や、曲げ強度を強めるために表面を溝彫りにするかといった細かい点について議論することになろう。その後、武具屋は製作工程を設計することになる。強度を強めるために、だれも理由は知らないのだが、鋼板を黒ヤギの尿に漬けて焼きなます。製作日程についていえば、彼はニワトリの声とともに目覚め、正午までには十分熱せられるよう炉に火を入れる。

 今日では主に企業の内部で領士争いが行われる。マーケティングの担当者は自らの版図を持ち、エンジニアもまた然りである。顧客調査は設計者のデスクにも回り、R&D計画は製造技術者にも届けられることになっている。しかし通常は各経営機能相互の連係がうまくいっておらず、この結果、無駄が多く、モラールをくじくような環境が生み出され、そうしたなかでは製品の品質と生産工程そのものの品質が損なわれてしまう。

 上級幹部達は機能横断的チームの活用が設計にプラスとなることを学びつつある。しかし、たとえトップ・マネジメントが、マーケティング、設計、及び製造を担当する幹部達を同じテーブルにつかせることができたとしても、彼らは何について話せばよいのだろうか。その会合を離陸させるには何から始めればよいのか。ハウス・オブ・クォリティがここで登場する。

 アメリカ製スポーツカーの緊急ブレーキレバーの位置を例にとってみよう。これをシートとドアの間の左側に付ければ技術上の問題は解決できた。しかし同時にこれでは明らかにスカートをはいた女性が優雅に乗り降りできない。このシステムが耐用年数いっぱいもつものであったとしても顧客は果たして満足しただろうか。

 これとは対照的な例だが、トヨタは顧客の関心を最優先する形で生産と設計上の決定を調整することによって、防錆性能記録を世界でも最低の状態から最高レベルにまで改善した。ハウス・オブ・クォリティを用いることにより、設計者は"車体耐久性"を、天候から運転状況まですべてを網羅した53の項目に分類した。彼らは顧客の評価を収集し、ポンプ作動状況から温度制御、さらには塗料の成分に至るまで、生産上のほとんどのすべての細目にわたって実験を行った。シートメタルの細目、塗装材料、ブレーキ温度に関する決定は、いずれも顧客が最も重要視する錆止めの諸側面についてのものだった。

 マーケティング技法がかつてないほど洗練されたものとなっている今日では、企業は製品に対する顧客の評価を驚くべき正確さで測定、追跡、比較することが可能になっている。その意味ではすべての企業が品質に基づいて競争するチャンスを持っていることになる。そしてコスト面から見ても、高品質設計が正当化されることは明らかである。メーカーは、顧客のニーズを真っ先に考え、その上で企業内の機能を横断した形で設計を進めることにより、市場化前の時間を節約できると同時に市場化後の手直しをも低減することが可能となる。