アメリカの企業が衰退していくのを食い止める方法をロバート・ヘイズと故ウィリアム・アバナシーが示して以来、大メーカーのエグゼクティブは1つの重要な戦略上の問題に取り組んできた(1)。その問題とは、垂直統合のための投資と供給業者への生産技術開発のための援助との間の正しいバランス点を見つけることである。

 ヘイズとアバナシーが述べているように、経営者にとっての問題は"経営者が行動を起こしたり投資するのをいやがっていることではなく、行動を起こした時にそれが現状だけを強化してしまうという予期しない結果をもたらす点、である。確実な短期的収益増があるという理由で川上への統合を決定する場合、経営者はしばしば将来における革新的な方向付けを考え出す能力を自ら押さえ込んでしまう。

"革新的な方向付け"という言葉の意味は、ヘイズとアバナシーによれば、技術的に最も進んでいてコスト効率も最も高い部品生産の方法を製造工程の中へ取り入れるための戦略的なアプローチのことである。2人が認めているように、どんなメーカーでも川上への統合を行えば、購買やマーケティング機能の若干の縮小と経費の一元化をもたらし、研究・開発と設計業務の集中化が可能になる。事実、購入品目が鉄鋼とか石油といった一般の商品の場合は、川上への統合はまず確実に利益を増やす。しかしながら、消費者向けのエレクトロニクス製品や耐久財を生産している技術指向型の企業にとっては、川上統合は大きなリスクがあるとヘイズとアバナシーは指摘している。このような企業にとって最も好ましいやり方は、個々の部品を購入することであって、部品生産事業を買収することではないと2人は述べている。

"重要な部品は買わずに自社で作るという決定を下したために、それが自社を時代遅れの技術にしばりつける結果になっていることに経営者が突然気付くこともあるだろう。また、供給業者の競争相手になったために、それらの様々な業者の研究・開発の成果を使わせてもらえないという事実に気付くこともあるだろう"さらに、部品生産技術をマスターして供給業者を支援するために時間と経営資源を投入すれば、今度はその業務をうまくやるための苦労が生じるだろう。"供給業者との長期契約や長期にわたる友好関係があれば、技術革新能力や技術革新への対応能力に頭を悩ますことなく、川上統合と同じコスト上のメリットを数多く手に入れることができる"と2人は述べている。

 2人の警告が発表された後の数年間にコンピュータ管理の生産システムは一層進歩したが、これはまた彼ら2人の主張の一部、すなわち技術がもたらす革命的なベネフィットを強調した部分がまさに正しかったことを実証した。進んだ生産システムを工場へ導入したらどうなるかという点については多くのことがすでにわかっている、もっと正確にいえば新技術の導入が工場をどのように変えるか、オートメーションがどれほど高価で企業にとって重い負担になるかということがわかったのである。

 ゼネラル・エレクトリックは、ケンタッキー州ルーイスビルにあるアプライアンス・パーク工場(食器洗い機、洗濯機、ドライヤー、冷蔵庫、電子レンジを生産)を高度な自動化工場へ転換する作業を5年間にわたって続けている。1983年には食器洗い機工場にオートメーション区画が導入されたが、これによって組み立て工程はこれまでの5日から数時間にまで短縮できた。そして同社のマーケットシェアを30%から40%以上に増やすのに貢献した。1億ドルを投資した冷蔵庫用の新しい生産ラインは工場の一方の端からその末端まで完全に自動化されている。アプライアンス・パーク工場での生産量は伸びたが、従業員数はこの10年間で1万9000人から1万人に減少した。ゼネラル・エレクトリックの経営者は、この巨額な費用を投入した転換の間はすでに自社の手を放れた部品生産事業の経営に頭を痛める必要はなかったのである。

 これと同時に、重要な設計機能や研究・開発機能は川上の供給業者に任せてしまうべきだという2人の主張も、正しかったことが証明された。多くの小規模な供給業者、特に自動車部品メーカーは、コンピュータを使った設計と生産システムにおける技能を身に付けてきた。数多くの完成品メーカーは、かつては自社で行っていた高品質の部品とより効率の高い生産システムの開発を高い技術を有する供給業者や機械工具商社に依存するようになった。一方では、独立の供給業者の中にも今では大企業のグループメンバーと見なしたほうがよい業者も多くなっている。所有はされていないが大企業に強く依存しているので、事業計画も大企業に管理されているような業者である。このような情勢は垂直統合時代が終わったことを示すのだろうか。

 我々はそうは思わない。健全な企業は依然として、垂直統合を生産機能改善の重要な要素と見なしていると考える。もちろん、大メーカーでも供給業者からその最高の部分を引き出す手法を学ばなければならない。しかし、生産機能の改善と川上への垂直統合は大メーカーが統括している3段階の生産工程と微妙な形で結び付いている。もし垂直統合されていなければ、技術指向型の企業は川下の比較的収益性の高い組み立て工程や流通業務から利益を上げるために、最も多くの投資が必要な工程を担当する川上の部品メーカーを無力化して倒産させてしまうかもしれない。しかし、こんなことが永遠に続くはずはない。

3段階の生産工程

 川上への垂直統合の利点は、生産工程と市場力並びに市場力を形づくっている先端技術を詳しく調べることによって、より明確になる。

 一般的にいって、生産工程は3段階に分けることができる。すなわち、最終製品の組み立て工程、半製品の組み立て工程及び部品製造工程の3段階である。そして、これらそれぞれの段階ごとに別々の工場と事業が存在している。例えば、フィリップスのコンパクトディスク・プレーヤーの例で見ると、これは半製品を組み立てて完成品を生産できるように設計された工場から生み出される。この場合の半製品とはシャシーの中へモーターやレーザーなどの部品が組み込まれたデッキやプリント配線板などである。自動車の場合はもっとわかりやすく、エンジンとかギアボックス、ブレーキが半製品になる。