ヨーロッパからの探検隊が初めてカリフォルニアの地を発見してからほぼ2世紀にわたって、地図製作者たちはこの土地を北米の他の部分と切り離された島として描いていた。この誤りは結局訂正されたものの、これが事実であるかどうかはともかく、心理的には、これら初期の地図製作者たちは最高に適切な隠喩を使ったのである。

 カリフォルニアは一風変わっている。カリフォルニア流の風変わりなマネジメントを表わす言葉があるとしたら、それは次のようなものだ。若い創業、イノベーションと企業家精神、黄金のチャンス――これらがカリフォルニアの企業の活力を象徴的に表わしている。

ホテル・カリフォルニアにようこそ

 良くも悪くも――というよりも実際には良くて悪いのだが――カリフォルニアはアメリカの夢の中で際立った位置を占めている。そこは、冒険好きなアメリカ人が出かけたところだった。最初はゴールドラッシュに殺到した人たちが一山当てた。その次は特にこの国が誇らしげに自明のさだめ(Manifest Destiny)とうたったものを遂行するためだった。今日、カリフォルニアは人びとがとてつもなく大きな自由とチャンスを探し求めて行くところである。それによって個人的な問題と経済的な問題をともに追い求めるためである。すなわち、自分自身を発見し、また、この国を21世紀に向かって導いていく技術を生み出すのだ。

 イノベーションを促進する条件は――事業運営のやり方や生活の仕方のなかでみられるものだが――故郷を出る決心をした先駆者のなかに、もとから宿っている。彼らの決心のなかに何か新しいことをやってみたいという気持ちが表わされているのだ。その条件はまた土地の景観や気候、他の州ではなかなか変わらない社会規範や慣例が力を失っていることからも明らかである。このカリフォルニアでは、大家族、コミュニティ、行政区画、伝統、制度その他あらゆるものが過去のものとなっているのだ。

 カリフォルニアは自分の特殊性を正確に知っている。自州の外交政策をこれほど自慢する州政府は見当たらない。カリフォルニア州合算税にかかわる論争が行なわれたときに、日本とイギリスが言い寄ってきたが、法律立案者たちはこれらの国から叩頭の礼を受けたし、立法化キャンペーンに対する献金も当然のこととして受けたのである。他のどの州も自州が世界経済のなかでどのような位置を占めているかといった言い方はしないし、国際貿易均衡について話すようなことはない。このお国自慢にはいくつかの理由がある。カリフォルニアは世界の経済大国と比べても7番目に位置している。これは、中国を抜きイギリスとイタリアに迫るもので、州総生産高は5000億ドルにのぼっている。州商工局の予測によると、2000年までには第5位になるという。ロサンゼルスは全米一の人口を擁する地区となり、サンフランシスコ湾岸区は投下資本に対してもっとも豊かな都市の中心となる。

 カリフォルニアはなんでもが1位であり最大なのだ。そこでは他のどの州よりも多くの、ポルノの販売、離婚と自殺、人の心を惑わす宗教や服従者、スケートボード事故がある。そこはまた、マイクロコンピュータ、太陽エネルギー、公認法律学校、ノーベル賞受賞者、女性事業主などで他をリードしている。カリフォルニアはシリコンバレーの故郷である。そしてまた、米国農業を主導する州でもある。黄金の州は幻惑されるような華麗さの中心にあって光り輝いている。この国最高のクラシック音楽と世界的な稀覯本および美術のコレクションまでももっているのだ。カリフォルニアの住民は新しいパーソナリティと新しいコミュニティをつくりあげてきた。彼らが新しいビジネスの流儀を創り出したからといって何の不思議もないのではないだろうか。

 カリフォルニアの島国経済は非常に消費者中心主義であり、かつ実験主義的であることを好むため、カリフォルニアの企業は絶えまなく、ほとんど日常的に革新を進めていかなければならない。これらの企業は世界最大のテストマーケットに供給しているのだ。そして、労働力は新しい。国内の他の地域から――世界の他の地域からも――新生活を始めることに望みを託してこの地に魅きつけられてくるからである。いくつかの主導的な経済セクターの原動力となっている技術は最新のもので、この地で発明され、組織構造にも影響を与えている。経済は柔軟性、適応力、そして思いもかけない組合わせによる成功のうえに成り立っている。習慣的な変化、新しい伝統、制度化されたイノベーションなどがそれである。カリフォルニアは統合によるマネジメントの発祥地なのだ。

 もちろん、カリフォルニア産業界のすべてが、このような急伸する企業家精神や革新的な自己表現をとっているのではない。サンフランシスコの最高に尊大な企業人はボストン産業界きっての名門インテリに見習おうとしてきた。スタンダード・オイル社がそれだ。一般の常識が――そして公民権法が――それを否定しているのに、この会社の19階ビルのなかでは男子のみの住む区画が残されていた。そこには、男性経営管理者と、机から机へと書類を運ぶ男性雑役夫がいたのである。

 そして、各経済セクターのあいだには注目すべき相違がみられる。石油会社は、本社がヒューストンにあろうがロサンゼルスにあろうが、石油会社には変わりがない。また、ロッキードやTRWあるいはロックウェルなどの航空宇宙会社は、本質的に中西部の会社であって、もとは制動装置やバルブを作っていたが、いまは大型飛行体を作っている。しかしながら、カリフォルニアに分散設置された会社では、その管理の仕方もカリフォルニア独特の流儀がとられているのである。

シリコンバレーは"サメ"の棲む谷

 シリコンバレーの半導体会社の大手モノリシック・メモリー社の創立者アービン・フェーダーマンは話している。「サメを考えてみよう。サメはほぼ1万5000年生き延びてきたのですよ。その理由がおわかりですか。その理由はサメは順応力が高く、常に動きまわり、けっしてじっとしていることがないからです。こいつは最高に柔軟性の高い動物で、骨はなく、軟骨だけ。それにサメはいつも自分の武器を新しい状態に保っている、つまり古い歯を捨てながら新しい歯が常にまえにせり出すようになっているのです。こいつは、いつでも用心深くて、常に餌を求めて動きまわりながら、水温の上昇や氷河時代などの環境変化に適応する力をもっているのです。どんなことが起こっても、サメは生き残ります。つまり、これこそ、われわれが生き残っていくためにとらねばならない経営のやり方なのです」。