リスクを取り扱う方法は、リスクをどのように定義するかによって決まる。リスクを定義することは、多くの場合、外見よりも込み入った仕事である。リスクは、多くの頭をもった怪物であるので、撃ち落とすべき頭を見極めることは、時として大変難しいことになる。

 企業経営者は伝統的に年金基金のリスクを、年金債務に備えて形成される資産にかかわる、リスクと収益のトレードオフという観点から定義してきた。しかし、資産は孤立状態で存在しているのではない。それ自身のために収益を求め、リスクを回避しているのではないのだ。このことは、詳しい説明を試みれば、明らかになることかもしれない。だが、年金基金の「債務」の変動性という問題を舞台中央に引き出すためには、会計基準審議会基準87(Financial Accounting Standards Board ruling 87、略称FASB87)の登場が必要であったのである。

 会計審議会が給付建て制度に特有の性格を認識したことによって、制度の「債務」に対する新たな関心が生まれることとなった。給付建て制度においては、事業主は、年金信託資産の積立水準の大小にかかわらず、約束した年金に対して最終的な責任を負う。ただし、これは株式上場会社の年金制度の25~30%を占めている、はるかに資産規模の小さい掛金建て制度については当てはまらない。

 会計手続きの第一の目的は利害関係者に対し、企業の保有する債務に充当すべき資源に関して、整合性、信頼性のある情報を提供することにある。それゆえ、FASB87は年金基金の剰余(制度の資産とその債務との差)に焦点を当てている。その結果、投資政策の観点からいえば、資産はその積立の目標としている債務と何らかの構造的関係をもたなければならない、という単純な考え方が遅まきながら認識されることとなった。

 FASB87では債務の現在価値の計算に用いられる利率決定は、もはやアクチュアリーの範囲ではない、と規定している。現在では市場金利がこの目的のために用いられねばならない。このことは今後、給付債務の現在価値は、従来よりも大幅に変動するであろうことを意味する

 基金スポンサーの主たる関心事は、常に市場にリンクして評価されてきた基金資産の価格の変動性という問題であった。これまで伝統的に資産の最大シェアを占めてきた株式、および制度内容と数理上の前提によって決定される債務の現在価値については、このように資産の変動性に焦点を合わせることは意味があった。

 債務もまた市場の変化とともに変動することとなった現在では、年金基金のリスクは、資産のみの変動性から剰余の変動性へと移行するだろう。資産価格と債務価格とのあいだの相互作用は、決定的に重要な変動要素となる。

 したがって、ほとんどの企業は年金基金のリスクの定義をFASB87に対応したものに組み替えつつあるように思われる。しかし、企業はリスクの定義を過度に単純化するという誘惑に屈してはならない。これは、会計的に定義されたものとは異なる、真のリスクの観点からすれば不適切な年金基金の再構築をもたらしかねないのである。FASB87は年金剰余を基金債務の利率感応性という観点から定義することに力点をおいたが、結果として剰余の利率感応性に対して過大な注意が払われることとなった。リスクの定義の過度の単純化はここから生まれる。

 このような新しい考え方は、企業の収益性と財務的健全性に大きな影響を与える。年金資産は、しばしば、会社の資産全体のなかの大部分を占めるまでに成長している。年金資産の変動性と収益性は、会社の収益結果を左右する。FASB87によって、年金資産の年金債務に対する関係は、公表される貸借対照表上にも報告される場合がある。したがって、上級経営者は重要な営業部門に対してと同様に年金基金に対しても多大の注意を払う義務をもつ。要点は、企業リスクに与える影響と対比して測定される企業の潜在的な長期収益を関連づけて、基金のさまざまな決定の分析であろう。

考え方の新旧対比

 年金基金が過去四半世紀のあいだに、企業資産のなかで重要性を帯び始めるとともに、年金ポートフォリオのマネジメントは、投資に対する期待収益とその不安定性(すなわちリスク)をいかに組み合わせるかという点に努力を傾注した。その考え方は、収益率の年度間、場合によっては四半期間の変動の大きさをある範囲にコントロールし、それに見合う収益を最大にするというものであった。不安定性は、次の3つの理由から関心の対象とされた。