「ある人にはあう靴でも他の人には窮屈なように、どんな場合にも適した生活の秘訣などあるわけがない」、カール・ユングは『魂を求める現代人』でこう述べている。この言葉を書いた時、ユングは戦略経営を考えていたわけではない。しかし、そうだとしてもおかしくはなかった。

 多事業企業の経営とは本部の経営者と事業単位や事業部を運営する経営者との関係を管理することだ、といってもよい。戦略の師と仰ぐべき人はいるにしても、これには唯一最善の方法はない。むしろ、会社のポートフォリオに含まれている事業の性質やニーズ、本社にいる人たちのやり方、会社の戦略や目的によって最善の方法は決まるものなのである。

 ブリティッシュ・ペトロリアム社では重要な戦略に関する意思決定にはすべて本部が関与する。だから事業部のマネジャーに任されているのは運営に関する意思決定である。この会社は、このやり方で成功している。BTR社の履いているのは、これとは違う靴である。BTRで戦略問題を決定しているのは、市場と密着しているマネジャーである。トップは業績比率と財務統制に専念している。そして、この会社も繁栄している。

 イギリスの多角化大企業16社を研究して、われわれは戦略の運営に成功する3つのスタイルを明らかにした。その3つを"戦略計画型"、"財務統制型"、"戦略管理型"と呼んでいる(この研究の詳細については「戦略と経営スタイル」と題する囲みを参照していただきたい)。本部と事業単位との関係を決める独自のやり方が、このそれぞれの方法の特徴となっている。このどれを選べばよいのか、その秘訣は自社の環境に最も適したものを見つけ出すことである。そして、その方法にとって避けられない欠点を厳しく監視してゆくことである。

戦略と経営スタイル

 われわれはイギリスの一流企業16社を調査したが、その目的は、現行の慣習を明らかにし、さまざまの階層で認識されている重要な問題点を確かめ、戦略的意思決定のプロセスと会社の業績との関連を見ることにある。

 この目的のために、各社ごとに5人から20人の本部、事業部、事業単位のマネジャーと時間制限を設けずインタビューを行なったが、これにはほとんどの場合、社長も含まれている。また会社の戦略的意思決定プロセスの公式側面に関するデータを、たいていは企画部門の長から集めた。それ以外に、刊行された報告書も利用した。

 調査対象はすべて上場会社であり、英国に本社をおいていて、製造部門とサービス部門の全域にわたっている(金融サービスや小売の部門に入る会社はない)。これらの会社は、規模、多角化、優れた実績という点で共通の特徴がある。

 この調査対象となった会社は次のとおり。ブリティッシュ・ペトロリアム、インペリアル・ケミカル・インダストリーズ、ジェネラル・エレクトリック、インペリアル・グループ、BTR、ハンソン・トラスト、コートルズ、STC、BOC、キャドバリー・シュウェップス、ユナイテッド・ビスケッツ、ターマック、プレシー、レックス・サービス・グループ、ビッカース、フェランティ。

戦略は大胆 しかし決定は遅れる

 本部が戦略に深くかかわっている会社は多数ある。提案をまとめるのは事業単位マネジャーであるが、最後に口をはさむ権限を本部が保留しているのである。この理由は簡単だ。ある上級経営者がわれわれに話してくれたが、「事業の生死を決するような意思決定が10年間に2度や3度はあります。本当にこれを事業マネジャーに任せきりにしますか」ということだ。BP、BOCグループ、キャドバリー・シュエップス、レックス・サービス・グループ、STC、ユナイテッド・ビスケッツといった会社が、この任せきりにしない部類にはいる。

 この"戦略計画"方式の1つの強みは、個々の事業単位の戦略決定プロセスのなかにチェック・アンド・バランス(抑制均衡)を組み込んでいることである。責任はまさに重複する。したがって事業単位マネジャーと本部スタッフはコミュニケーションをはからざるをえない。こうしたアイデアのやりとりが思考の幅を広げ、多種多様な見解からの指摘を受けることによって戦略提案に磨きがかかることになる。事業単位マネジャーにとっても立派な提案を作る大きな励みになる。本部マネジャーからは突っ込まれ、最終的には本部のトップが自分自身の判断に従うことになるが、事業単位マネジャーは自分たちの見解が注意深く検討されていることを承知しているからである。

 このスタイルの2番目の強みは、事業単位間で十分調整をとった戦略を奨励することである。中央のマネジャーが密接に関与し、スタッフ部門の機能が強く働き、責任が重複するので、事業単位ではその計画を調整できることになる。例えば経営資源の共同利用や共通の流通ネットワークで事業分野が結びついている時には、これは特に重要である。キャドバリー・シュエップス社の社長、ドミニク・キャドバリー氏は次のように指摘している。「当社の事業の核である製菓とソフトドリンクでシナジーの機会をできるかぎり大きくするよう努力しています。経営技能と製品知識の移転、資産の共用が必ず行なわれるようにしなければなりません」。また元STCの会長であるサー・ケネス・コアフィルド氏も述べている。「エレクトロニクスのような事業では事業部は互いに援助しあうべきです。他の事業部の仕事がはかどるように、自分の事業部が差し控えなければならないこともあります」。

 戦略計画スタイルの最大の強みは、野心的な事業戦略創造を促進することだといってもよい。戦略計画型企業は事業部門が競争相手に対して優位を占めようとする努力を最も効果的に支援できる。本部が事業を進展させるべき方向さえ確定しておけば、事業単位マネジャーは設定されたどんな目標でも達成する大胆な計画を自由に策定できる。「独立した企業だったら、こんな野心的な計画を進めることなど、とうていできません」と、ある戦略計画型企業の事業単位マネジャーは話してくれた。この意見は同様の立場におかれた多数の事業単位マネジャーの考えを表わしている。

 また戦略目標はトップの示すものだから、事業単位では、その活動によって生ずる短期的な財務への影響に大きな懸念を抱くことなく、そうした目標を堅持できる。ある意味では、事業単位に対する資本市場の圧力が緩和されるのである。そして、もう1つ、本部部門と事業単位とが合意しているので、共通の目的を生み出すことができ、うまくやれば、これが計画の実行に責任のある人びとのやる気を盛りあげるのに役立つのである。

 こうした強みは戦略計画型企業の業績となって明白に示されている。既存事業が戦略管理型や財務統制型の企業に比べて一段と伸びる実績となっている(図1参照)。また回収に長期間を要する投資の額が多い。STC社のサー・ケネス・コアフィルド氏もいっているが、「何か事業をものにするには、5~7年、開発につきあわなければならないこともある」のだ。UB社の会長であるサー・ヘクター・レイング氏は、「私の経験からいえば、今日の競争環境のもとで独り立ちできる事業を育てるには7年くらいはかかりますよ」と述べている。