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株価は、企業業績に対する市場の期待の大きさをもっとも明確に示す尺度である。しかし、600社以上のトップに対し、1984年に行なわれたルイス・ハリス世論調査の結果では、自社の株式を市場が正当に評価していると考えている経営者は、3分の1以下にすぎない。興味あることには、自社の株式が過大評価されていると考えている経営者はわずか2%であるのに対して、なんと60%が過小評価されていると答えている。経営者に関する私の研究でも、市場が会社を過小評価しているという信念が浸透していることが確かめられた。同時に、この研究から、市場は一般に分析によって支えられているわけではないことが明らかになった。
マネジャーは、市場がどのようにして自社を評価するのかに関心をもっている。しかし、彼らは、そのプロセスが、きわめて不確実な将来についての見たこともないアナリストの予言に依存していることに疑問を呈している。経営陣が自社に何が生じようとしているのかを指し示すことができないのに、市場に、どうしてそれができるだろうか。
またマネジャーたちは、価値は、経済状況や産業の競争関係、会社の戦略的位置に敏感に左右されると主張している。
経営者と市場価値を調和させるべき時がきている。企業買収と再編成が支配的な経済環境のもとでは、マネジャーは、単に自社の株式が過大評価あるいは過小評価されているかどうかに関心をもつだけではすまされない。目先のきくマネジャーは、株式市場が何を語るべきかをいつまでも議論し続けるべきではないと考えはじめている。彼らは、自社の業績に対する市場の期待について株式価格が何を教えようとしているのかを分析すれば、多くのことを学べることに気づいている。
私の研究とコンサルティング活動から、市場は経営者に情報を提供できることが証明できる。それは例えば、会社がゴーイング・コンサーンとして評価されているのか、あるいは何らかの分割の予想のもとで評価されているのかといった情報である。経営者は、市場のシグナルの意味を知ることによって、自らの期待と市場の期待とを比較することができる。さらに重要なことは、経営者が、事業や財務の再編成の諸手段の有効性を的確に評価できることである。私は、こうした事実の発見にもとづいて、市場の期待の意味をシステマティックに解釈する方法として"マーケット・シグナル・アプローチ"を構築した。
このアプローチで何かできるかを説明するために、ある大手企業の例をみてみよう。この会社はテークオーバーの対象と噂され、現在重大な再編成を遂行中である。この会社の株式は、1986年の前半には利幅の大きさで市場では抜きんでた地位にあった。経営者は、この突然の活況に喜ぶと同時に困惑した。
この会社の経営者は、市場の反応を理解するために、Value Line誌などの出版物を通じて、自社の売上高の成長、営業利益率、所得税率、経常資本投資、固定資本投資についてのアナリストの予測情報を集めた(これらの指標は、すべての株主価値の分析の基礎であり、したがって私はこれらを"バリュー・ドライバー〔価値指標〕"と呼ぶ)。次に彼らは、この集めた予測情報を、自社の評価にもっとも優れていると考えられた3~4人の業界アナリストの予測で補強した。経営陣は、これらの数字を使って、将来のキャッシュフロー予測を発表し、また市場の考えていることがもっとも可能性の高い会社の将来像であるという統一した説明を展開した。
経営陣は、1986年初につけた1株50ドルという高値を正当化するために、会社が向こう10年間、これらバリュー・ドライバーの予測レベルの業績をあげることを市場が期待していることを宣言したのである。その後、この会社は資本コスト相当の投資が期待された(いいかえれば、50ドルという株価は、バリュー・ドライバー予測値にもとづいた10年間のキャッシュフロー予測額の現在価値に、10年後に達成されるキャッシュフロー水準の現在価値を加えたものを表現していたのである)。この会社の5年計画での予測値はウォール・ストリートの予測に非常に近かった。そこで経営陣は、1986年初の市場は会社を適正に評価しており、侵略者によって急激に再編成されるような差し迫った危険はないと判断した。
その後1986年半ばには、この会社の株価は50%上昇して1株75ドルになった。この時、市場全体では20%上昇しただけであった。市場は、明らかにより高いレベルの――経営陣の達成目標を超えた――業績を期待したのである。このシグナルは、会社が売上高成長率を8%から11%を若干上回る水準に、あるいは営業利益率を12%から16%に増加させるはずだということを伝えている。
同時に市場の期待は変化し、利子率は低下していた――この低下はまた会社の株価の引き上げ要因でもあった。そこで経営陣は、分析を進めて(50ドルから75ドルへの)株価上昇のどの部分が利子率の低下によるものかを明らかにしようとした。分析の結果、1株当たり25ドルの上昇のうちわずか5ドルだけが利子率の変化にもとづくものであった。このことは、残りの20ドルが市場がある重大な再編成を予想した結果であることを意味している。さらに分析を深めることによって、株は75ドルで取り引きされているが、ウォール・ストリートは、この会社の清算価値を85ドルから100ドルの範囲で予測していることが明らかになった。



