異分野の理論は新しい思考の軸となりうる

 今回から数回にわたり、「現在は異なる学術分野で探究されているが、今後のビジネスパーソンの思考の軸となりうる、未来の経営理論」を取り上げ、解説していく。

 これは拙著『世界標準の経営理論』ではなかった試みだ。もちろん、本連載の主目的は、研究の末に「ビジネスの真理法則に近い」として生き残ってきた「経営学の理論」を解説することにある。しかし実は、経営学と一見かけ離れた学術領域でも、人、組織、社会の構造を異なる角度から説明する研究が進み、理論が確立されつつある。これら異分野の理論もまた、ビジネスパーソンに新しい思考の軸を提供してくれるはずだ。

 この背景から筆者は以下の3つの条件に基づいて、「異分野で探究されている、未来の世界標準の経営理論」を選定した。

 条件1:社会科学・人文科学以外の学術分野の理論であること

 条件2:人・組織・ビジネスの未来を見通していくうえで、我々の思考の軸となりうる理論であること

 条件3:世界中で研究が進展しており、将来的に経営学に取り込まれれば「世界標準の経営理論」となる可能性があること

 これらを踏まえた結果、本連載では、「ネットワークサイエンス」(network science)、「複雑性」(complexity)、および「神経科学」(neuroscience)の3分野の理論を取り上げることにした。まず今回と次回で、ネットワークサイエンスの理論を解説する。

なぜネットワークサイエンスを知るべきか

 拙著でもすでに、人と人のつながりのメカニズムを説明する「ソーシャルネットワークの理論」が、社会学ディシプリンの経営理論として発展してきたことを解説した。その主要理論は、「『弱いつながりの強さ』理論」(strength of weak ties)、「ストラクチャル・ホール理論」(structural holes)、「ソーシャルキャピタル理論」(social capital)などである。

 一方で1990年代から、これとはまったく別の流れで、統計物理学、計算社会科学、数学などの融合領域として、「ネットワークサイエンス」という学術分野が台頭してきている。たとえば、米国のノースウェスタン大学はネットワークサイエンス専門の研究所を有しているが、所属する研究者の多くは統計物理学者だ。

 なぜ本稿でネットワークサイエンスを取り上げるのか。その理由は2つある。