私のビジネスを誰が所有するのか

 サクセッションプラン(後継者計画)は「一流のCEOにとって最後の仕事」といわれてきた。CEOがその企業のオーナーや創業者である場合、この「最後の仕事」は計り知れないほど複雑になり、次のオーナーを決める意思決定は、とりわけ重要な意味を持つ。その後の何年にもわたって、創業者とその家族だけでなく、従業員、顧客、そしてコミュニティなど、会社に関係するすべての人々に影響を及ぼすからだ。この選択によって、成功した創業者の伝説が確固たるものになるか、あるいは瓦解するかが決まる。

 しかし、多くの創業者はその決断を人生のかなり遅い段階になって初めて下すか、あるいはまったく下さないままだ。権力を最後まで手放そうとせず、選択肢を狭めてしまう人もいれば、消極的な姿勢で事業を子どもたちに引き継がせ、その先どうするかも含めて任せてしまう人もいる。あるいは思考停止に陥り、何もしない創業者も多い。だが、適切な計画を立てずに事業を次の世代に引き継ぐと、莫大な税金を課せられるだけでなく、家族の対立や経営陣の衝突、動揺などが生じて事業が混乱し、売却や清算を避けられなくなることもある。

 同様の問題は、創業者に限りなく近い経営者によって運営されている企業でも起こる。たとえば、ルパート・マードックのように2代目オーナーが今日の事業を築き上げた場合や、創業当初から働いてその会社の顔となった人物が率いている場合などだ。

 創業者が事業承継に備えることは、昨今、特に重要性が増している。社会の超高齢化、いわゆる「シルバー・ツナミ」により退職者が急増する中、創業者が経営する企業にも、大規模な所有権移転の波が押し寄せているためだ。米国内で従業員を抱える未公開企業の半数以上において、オーナーの年齢は55歳を超える。その数は推定で290万社、従業員3210万人、給与総額1.3兆ドル、収益は6.5兆ドルに上る。ファミリービジネスが米国より広く浸透している国では、この数字はさらに高くなると考えられる[注1]

 この問題に直面しているのはパパママストアと呼ばれるような個人経営の企業だけではない。過去20年間に世界で最も注目を集めてきた企業のいくつかも、創業者主導で経営されてきた。チックフィレイ、メナーズ、エンタープライズ、ラブズなどといった非公開企業や、メタ・プラットフォームズやナイキなどの公開企業である。

 いまや、そうした創業者世代のすべてが、重要な課題に直面している。「私のビジネスを、自分に続いて誰が所有するのか」。この決断は、長期的な影響をもたらす。にもかかわらず、STEPプロジェクト・グローバル・コンソーシアムによる「グローバル・ファミリービジネス・サーベイ」(2019年)の報告によると、全世界のファミリービジネスにおいてCEOの70%がサクセッションプランを立てていないと回答している。

 本稿では、創業者が選択可能な承継方法を明らかにし、正しい決断を下すために踏むべきステップを説明する。ただし、すべての創業者にとって有効な一つの解決策など存在しない。したがって、創業者みずからが何を成功と見なすかを定義し、それを達成するための道筋を理解および探求し、その結果として最終的な計画を策定することが何より重要になる。この一連のプロセスを早めに始めることで、創業者は最後の仕事から最大の成果を生み出すことができる。

所有権を手放すことは死を意識すること

 みずからが手がけた事業と、その影響を受けるすべての人を深く気にかける創業者は、成り行きに任せず、切羽詰まってから慌てることなく、用意周到に所有権の移行プロセスを始めておくべきだという考えには、誰もが納得できるだろう。それでも承継計画の策定が困難なのは、企業のオーナーが忙しいという問題に加えて、主に2つの理由がある。

 第1に、このプロセスには人間的な感情がつきまとう。所有権を手放すことは、創業者にとって死を意識するにも等しい意味を持つ。また、アイデンティティの一部を失うことにもつながる。みずからを企業のリーダーと定義してきた人々にとって、自社を手放すことは非常に苦しい経験になりうる。

 第2に、所有権に関する決断は家族にも大きな影響を及ぼし、それがさらなる問題を引き起こす。創業者は自社を自分の子どもたちに引き継がせたいと思うかもしれないが、それが想像するより厄介な問題に発展することもある。