□ ある巨大な食事と宿泊サービスをする企業では、同規模の製造業者10社と比較して、統括管理的な仕事が多いし、そのための要員も多く配置している。この企業では他の多くの顧客接触サービス企業と同じように、業務とマーケティングの間の責任をもつライン機能をなくしてしまった。この会社では、事業の計画に際して日常の業務とマーケティングを、わたしがいうところの戦略的サービス構想(ビジョン)によって結びつけているのである。

 □ その利益の大きい巨大なアメリカ企業は、窓拭き、料理人、保守整備要員の管理をすることを日常業務としている。ほとんど人間のこと――その仕事や設備や能力開発――だけに目的を集中していることが、その成功の秘訣である。

 □ ある本社集権型でない油田サービス企業の品質管理の過程には、さまざまな条件のもとに、あるいは直接監督することが不可能な広範囲の地域で働く従業員を厳選し、能力開発をして配置し、十分な報酬を与えることまでが含まれている。この業績のよい企業の場合、こういう過程を通じて価値が共有のものとなり、人間が結びつけられる。

 □ ある国際線の航空会社では、生産的な規模の経済性よりも、市場の経済性にいっそうの注意を払うことによって、航空機の平均サイズを小型化し、純益を増大させている。

 □ ある周知の財務データ・サービス会社の1985年における全収益の10%は、1982年以降市場に出た製品によって生み出されたものだ。この製品の原材料は、その会社の膨大なデータベースのなかに別の形で存在していたデータである。

 このような事例は、前向きのマネジメントの実践をかいま見せてくれる。これらは、よく検討してみると、さんざん悪口いわれたり、あまりよく知られなかったりするサービス部門においても、上手な競争戦略が広がっているのではないかという考えに導いてくれるものだ。

 支配的な力をもつ業界が切れ味のよい経営を実践することは、けっして偶然ではない。19世紀には、アメリカのいくつかの鉄道は、広範囲にわたるシステムの分割管理と、巨大な建設と業務のニーズを支える優れた調達技術の先駆者であった。世紀の曲がり角にくると、基幹産業が率先して科学的管理法の実験を行なった。ついで自動車産業を典型とする巨大な消費財メーカーが台頭し、その結果、分権化および慎重に細分化した市場を標的とする製品のフルライン化という考え方が生まれたのである。

 今日、経済的な指導権は、サービス産業が握っている。サービス産業、つまり商業取引、コミュニケーション、交通運輸、食事と宿泊、財務および医療サービス、教育、行政、業界への技術的サービスなどは、国民所得のおよそ70%を占め、その数はアメリカ中の農業以外の仕事の4分の3に相当する。過去30年のあいだに、サービス産業は4400万人の新しい仕事を生み出すことによって、急増した婦人や少数民族の労働力のほとんどを吸収し、第2次大戦後の不景気のたびに、その影響を緩和するとともに、景気回復をそのつど促進してきたのである。

 サービス部門のこうしたリーダー的役割を考えるとき、今こそ、その模範例を検討して、それがいかに生産性を向上させ、競争戦略を変えてきたかを洞察するのに、よい機会であろう。ほとんどのサービス業種におけるリーダー的な企業は、実にさまざまながら、いくつかの共通したテーマと実践の姿を見せてくれる。そしてまた、企業のあらゆる部門のマネジャーに教訓を与えてくれる。ではまず、最も優れたサービス企業の組織形態から検討してみよう。

機能の統合化

 財を生産している企業はたいてい、重要度の等しいマーケティング機能と製造機能を別個にもち、その調整はトップの手に委ねるという、伝統的な組織形態に従っている。サービス企業のなかにも同じことをやっているところもあるが、こういう形態は小売業、交通機関、食事と宿泊サービスのように、顧客との接触が密なサービス企業においては、きわめて少ない。このような企業にあっては、同じ場所で同じ時刻に、そして多くの場合、同じ人間によってサービスが売られ生産されるからだ。したがって、このような場合はおのずから、報告関係を無視してでもマーケティングと業務の密接な関係を保つことが重要になるのである。