今日のニーズに応えることは、必ずしも明日のビジョンを放棄することにはならない。会社全体の構造転換を実施中の、ある最高経営責任者(CEO)の次の言葉を考えていただきたい。「私は長期とか短期とかいう時間の尺度を完全に無視することにしています。私は徹底的なコスト削減について話しながら同時に、会社の構造を完全に変えてしまうような大型事業買収ができないかという話もしています。それを聞くとみんな非常に驚きますが、この2つのことは同時に可能なことだと思います」。

 以上の言葉が、筆者が"戦略的機会便乗主義"と呼ぶ考え方を説明している(1)。これは日々の諸問題を解決するための柔軟性はもちながら、同時に長期的目標をしっかり見据え、新しい事業機会を認識する能力をもつことをいう。筆者たちは今まで何度か上級経営者について調査を実施したが、有能な経営者ほど上記のバランスをうまくとっていることを発見した(2)。その秘訣は、彼らは短期の命題と長期目標間のギャップを埋めるため、常にある特定の習慣――情報の探索と処理、およびアイデアの実践に関する方法――を身につけていることである。

 経営管理論がわれわれに教えるところによれば、上級経営者の最も重要な役目は、会社の長期的、戦略的進路を計画し、実際に会社をその方向に進めることである。しかし、目標はえてして静止したままだが、事業環境はめったに静止していないので、経営者が上記の役割で成功をおさめるのは困難である。日々予期しない出来事、新情報、事業機会や、あるCEOが"短期的問題の渾沌たる乱入"と形容した状況が、たえまなく発生する。

 その結果、多くの経営者にとって、日々の業務は雑多で対症的となり、なかなかグローバルな長期計画の論理的帰結とはならない。実際、日々の業務の忙しさのために正式なプラニングを軽くあしらわざるをえないと信じている人たちもいるほどである。例えば、ある通信関連企業の部門担当社長は、自分の執務スタイルを次のように表現している。「私はいくつもの案件のあいだをよくバタバタと動きまわっていますが、この業界では、たまにはそれが必要なんです。少なくとも2つか3つの案件を同時に進行させていなければ、何ひとつモノになりません」。

 戦略的に考えられないことには、さきの通信会社経営者が以下に認めているように、もちろんある代償が伴う。「ときたま私は、よく目が見えないうえに集中力もお粗末なサイのようだと思うことがありますよ。はるかかなたの目標に向かって突進するんですが、そのうち、どこへ行こうとしているのか忘れてしまい、立ちどまって草を食べ出すんです」。いっぽう、長期目標に向かって突進することしか念頭にない管理者は、道中の草むらのなかのどこかに潜んでいる有望なもの――あるいは危険な兆候――を見落とすことがある。

 したがって、上級管理者の課題は柔軟性と方向性の両方を兼ね備えることである。本稿では、経営者がこの課題を達成するために用いる考え方のくせ、および行動様式のいくつかを紹介する。今日なすべき仕事と5ヵ年計画のバランスをとるための魔法の処方箋は存在しないが、戦略的機会便乗主義は、一方で長期目標を設定し、それを追求しながら目前の関心事に応える1つの有効な方法となりえる。

思考様式

 戦略的プラニングの必要性を否定する経営者はあまりいないだろうが、戦略的計画をあまりに厳密に実行しようとすると、それに縛られて自由がなくなりかねないと思っている経営者は多い。たしかに、これらの経営者は戦略的進路を彼らの活動を縛るものとは捉えず、予想外の事象をうまく処理するための一般的な枠組みと考える。彼らは、新しい情報や機会――戦略的計画のなかでは説明されていない事態の進展――を理解するだけの柔軟性を持ち続けようとする。

アイデアの収集

 このような経営者たちが自分の行動を説明するのに用いる隠喩から、彼らが、どのような方法で新しいアイデアを探し求めているかがわかる。ある経営者は、自分は海岸の屑拾い浮浪者で、高潮に打ちあげられたものを調べながら、ガラクタのなかから何か1つ拾いあげるか、あるいは放っておくか、または投げ返していつか違った場所に打ちあげられた時に調べればよいと思うか、その決定をしていると筆者に語ってくれた。別の最高経営者は、自分のことを水蓮の葉に乗ってハエが飛んでくるのを待っている蛙になぞらえた。彼は最も太って最ものろいハエを引きつけるのに最適の場所を丹念に選ぶ。

 海岸のゴミを拾う時もハエが飛んでくるのを待つ時も、上級管理者は戦略的目標との関係が最初は、はっきりしないアイデアを収集することがよくある。アイデア収集作業は繰りかえしが多く、しばしば間接的でもあり、ある事業本部長は、それを次のように説明している。「何とか問題解決の方法がないかと探している時に、あることが頭に浮かびますね。すると、"そうだ、これでいけそうだ"と思うわけです。ところが、その案が出ると誰か別の男が多少修正した案をもちださざるをえなくなることがあります。するとまた、"こっちもいいな"ということになり、結局、その案に飛びついてしまう」。集まったアイデアは可能性を秘めた案件の目録となるが、最終的には集めた経営者が、そのなかのいくつかを採用し、他は排除する。

 経営者が新しいアイデアを選別し評価する場合、頭のなかでシミュレーションというかリハーサルをやってみる方法がある。例えば、ある本部長は、彼の参謀の何人かが進言した提案どおりに工場閉鎖を発表するために、その工場の管理者全部を非常招集した場合、どのような結果になるか頭のなかで思いめぐらしてみた。「私は頭のなかで、突然プラントの全スーパーバイザーに職場を離れ、会議に集まるよういってみるのです。すると、工場の人間は、みんなそれを見てますからね、"いったい何事があったのだ"と知りたがりますわね」。この経営者は先行思考のおかげで、もっとよい案を思いつくことができた、すなわち個々のスーパーバイザーと個別に話しあうことを。工場閉鎖が労働者に発表された時、スーパーバイザーたちは、工場閉鎖およびその結果派生する事態に関する労働者たちの質問に、十分かつ余裕をもって答えることができた。