VoCレポートをCX向上の土台に
「唯一の接点」という制約を強みに転じるために賀來氏が着手したのが、VoC(顧客の声)の集約機能と認識共有の強化だ。その中心となるのが、RightTouchの「QANT(クアント) VoC」であるが、ここで集約したVoCを定例業務へ効果的に活用しつつ、コンタクトセンター部やその他部門にもレポートとして毎月配信している。単なる苦情件数の報告に留まらないこの取り組みが、組織全体のCX感度を高めている。
野村 CXに対する社内の意識を高めるために、どのような取り組みをされていますか。
賀來 コンタクトセンターに集まるお客様の声を毎月レポートにまとめ、コンタクトセンター部、契約サービス部の全職員をはじめ、他部門の社員にも多数配信しています。このレポートで大切にしているのは、お客様のご不満だけを並べるのではなく、感謝の声やコミュニケーター(オペレーター)の教育に関する取り組みなども盛り込み、CXに対する部門全体の意識の底上げと、社内全体へ共有することでの好循環を目指しているという点です。
たとえば、お客様から苦情があった場合、その場での対応に留まらず、VoCを活かしてFAQ(よくある質問)のウェブページを更新したり、業務プロセスを見直したりと、コンタクトセンター部全体の課題として構造的に原因を分析し、どのように解決を図っているのかまで可能な限りレポートに盛り込んでいます。
野村 単なる事後報告ではなく、コンタクトセンター部のアクションまで可視化することで、経営層を含めて社員の意識や行動も変わってきたのでしょうか。
賀來 役員・社員を問わず、レポートに目を通した人からいろいろな意見が出るようになり、一方通行の報告ではなく双方向のコミュニケーションができるようになりました。
お客様の声だけでなく、コンタクトセンター内で起きた出来事や教育体制、受電状況の分析、コミュニケーターのコメントなどもレポートすることにより、社員からは「苦情の背景にどのような構造的課題があり、どう改善につなげるのかまで示した方がよいのでは」といった具体的な意見が出るようになりました。レポートは単なる報告資料ではなく、携わる全員が課題認識をすり合わせるための接点になっています。
T&Dフィナンシャル生命保険
執行役員(コンタクトセンター部・契約サービス部担当)
レポートを通じて自分たちの活動がコンタクトセンター部内や社内で認知されることが、コミュニケーターのモチベーション向上にもつながっています。現場の声が経営レイヤーに、そして多数の社員にも届き、その関心が現場に返ってくる。この循環をつくることが、組織としてCX感度を高め続けるための土台になると考えています。
今後は、コンタクトセンター内での活用だけでなく、他部門とお客様のコミュニケーションの改善や、サービスの開発の参考にするなど、部門を超えてVoCを活用できる体制をつくっていきたいと考えています。
コンペリングイベントをAI推進加速のトリガーに
CX感度が高まりつつある中、賀來氏が次のステージとして見据えるのが、生成AIを活用したコンタクトセンターの変革だ。その背景には、事業成長に伴って顕在化した構造的な課題がある。
野村 カスタマーサポートへの生成AI適用がさまざまな企業で検討されていますが、御社ではどのようなAI活用戦略を描いていますか。
賀來 生命保険には満期がある商品もあり、契約件数が増えてくると、特定の年に満期が集中することがあります。従来はコミュニケーターの数を増やすことで大量の満期手続きに対応するしかありませんでした。しかしAIの能力が急速に高まっているいまは、人間の知識やスキルをAIに学習させることで、かなりの部分はAIが自律的に対応できるのではないかと考え、AIオペレーターの導入について検討を始めました。
お客様に満期のご案内をお送りすると、当然問い合わせが増えます。満期保険金を一括で受け取るだけでなく、一定期間預けて運用する据え置きや、分割で受け取るといった選択肢があり、それぞれ手続きが異なりますし、税金に関するご相談もよくあります。こうした複雑な問い合わせにもAIがある程度自律的に対応できるようにし、人とAIの協働によって、お客様からの問い合わせが急増した際にも満足度を損なうことなくスムーズに対応していく——そのビジョンを描いてプロジェクトに取り組んでいるところです。
野村 契約満期集中を「コンペリングイベント」(変化せざるを得ない状況)と位置づけ、変革のトリガーとしたわけですね。一方で、コンタクトセンターのオペレーター採用は年々厳しさを増しています。事業が成長していても人員を増やせなければ、それが成長のボトルネックになりかねません。
RightTouch
代表取締役
賀來 まさに、そこが当社の課題感と重なります。AIオペレーター構築というピンポイントのニーズに応えてくれるパートナー企業がなかなか見つからなかったのですが、RightTouchと出会えたのは幸運でした。当社の実務担当者は「プロダクトのことはもちろん、それ以外のことを相談しても何らかの解を提案してくれる。本当に伴走してもらっている安心感がある」と話しています。
AIオペレーターの構築を最優先としながら、VoCの活用などAIの適用領域を段階的に広げていく計画です。VoCについては、すでにRightTouchの「QANT VoC」——生成AIによってVoCを全量可視化・構造化するソリューション——を導入しており、従来は対応不可能だった量の顧客の声を分析できるようになりました。
今後はその分析結果をより効果的にサービス向上につなげる仕組みを構築していきたいと考えています。当社に寄せられるお客様の声と、代理店に寄せられる声には異なる部分もあり、両者が共有してサービスに反映することで顧客満足度をさらに高められるはずです。
