第2次大戦後の企業経営に見られる著しい特徴は、多角化と専門化の広がりである。生産財企業であれ消費財企業であれ、どんな企業もその事業を多角化して、市場に対し幅広い種類の、ときには混乱をまねくほど数多くの製品、サービス、技術を提供している。

 このような多角化、専門化は、技術研究の成果によるものである。例えば、高度な化学研究からはさまざまな産業用プラスチック製品が生まれ、特定の用途別に細分化しているし、鉄鋼業でも化学工業と同様にさまざまな用途別に設計された多様な製品を提供している。木材工業でさえも、市場の特別なニーズを満たすための新製品の発売で市場を確保しようとしている。多角化と専門化は技術研究もさることながら、非常に競争の激しい市場で常に自社の地位を維持するための活動、すなわちマーケティングによってもたらされた部分もまた大きいといえる。そうでなければ自動車に見られる車種の多さ、特定の商品だけを販売する専門店の増加、ガソリンスタンドとファーストフード店が合体した、新しい形態の販売店の増加といった現象については説明できないであろう。

 専門化が進んだために、どんな企業の経営者も、かつては巨大企業だけにしか発生しなかった問題に直面するようになった。事業が成長していくにつれて、そのルーツは同じなのに、いまではそれぞれが固有の経済特性をもつようになったいくつかの異なった事業群を経営するという問題に直面するようになる。これは1950年代と60年代に生まれ、コングロマリットとよばれる多角化企業のエグゼクティブにとってはなじみ深い問題であった。

 この時期にはシナジー(相乗効果)という言葉がもてはやされ、実際に数多くのコングロマリット企業の株もシナジー効果によって得られる高利益が予想されて高値をつけたし、買収経費をそれほど必要としない企業の吸収合併も盛んに行なわれた。コングロマリット化によるシナジー効果の利点を主張するのが流行になったが、この主張の正しさを納得のいくかたちで説明できる証拠は、多角化のメリットに関連するもの以外は何もなかったのである。

 単一の事業を行なう企業、あるいは単一の業界に確固とした事業基盤をもつ企業と比べると、たしかにコングロマリットの経営が難しい理由は数多くあるが、主な理由は2つである。1つは、トップ・マネジメントがその事業が属するさまざまな業界を理解しようとすると数が多い分だけ、複雑さが増えるという点である。そして2つめの理由は、企業内のすべての事業に対して画一的な経営方針を適用できないという点である。

 ひとくちにコングロマリットといってもその複雑さの程度には差がある。したがって、ここでいう経営の困難さも単に企業規模によってきまるものではない。例えば、製造業とサービス業の両方を行なっている企業は、たとえ、そのサービス事業が製造、販売されている製品と関連がある場合でも複雑さの程度は高まる。トップ・マネジメントの最も大きな仕事は、それぞれの事業にふさわしい経営方針を作り、それを個々の事業に適用することである。

 これはすべてのコングロマリットに共通する問題であるが、さらに以下のような要因によってますますこの問題の重要性が高くなった。それらの要因とは、吸収した多くの企業の質が低いこと、60年代に試みた革新的改革の後遺症として数多くの経営上の問題が残っていること、企業の体質が弱いこと、損益計算書が事業ごとにごちゃまぜになっていることである(さらに70年代になるとこれらに加えて、オイル・ショック、環境純化要求の高まり、妥当な金利での資金調達の困難さも問題を悪化させる要因となった)。

 それでもなお数多くのめざましい成功事例が、コングロマリットの合理化努力のなかから生まれている。とくに、ロックウエル・インタナショナル社のノースアメリカン・アピエイションとコリンズ・ラジオ、テキストロン社のベル・ヘリコプター、アブコ社のライカミングでは大きな成果があがっている。また、酸化チタンがまさに初期成熟段階に入った時点でのSCM社による中規模の顔料グループの統合も、成果の大きいものであった。

 これらのどの事例を見ても、コングロマリットのトップ経営者は、その事業の多様性から生じる各種の問題をうまく処理している。これらの経営者の活動をたどるといくつかの単純なルールが明らかになる。そこで以下にこれらのルールを私のSCM社での経験とからめながら述べることにする(SCM社では合併や売却があったので数は確定しにくいが、私は常時およそ21の事業を扱っていた)。これらのルールは、コングロマリットだけでなく、多角化と専門化の進行に対処する必要のあるすべての企業に適用できるものである。

計画策定は事業部門にまかせる

 コングロマリット企業は、いかなる種類のものであっても、全体的な企業戦略をもつことはできない。複数の内容の異なる事業の経営は、たとえそれがきめ細かく行なわれていても、それはふつう一般にいわれているような全体的な企業戦略の遂行とは別物である。コングロマリットにとっては、全体的な戦略とは事実のありのままの承認にすぎないのである。言い換えると、企業計画は各事業の個々の計画の積み上げであり、それ以上のものであってはならない。本社で一元的に戦略計画を作るというやり方は、単一の事業を行なう企業では有効であるが、コングロマリットではほとんど何の価値もないだろう。