社内各部門のパフォーマンスを評価する手法としては、社内の他部門との比較を行なうことが一般的には考えられる。しかし、こうした比較は単に自己満足を助長したり、「うちの部とあそこの部は違う」といった、いいわけを引き起こすといったさまざまな問題を起こすこともある。いっぽう、社外との比較は、その産業分野での最良の業務方法を発見できるし、かつ、その方法の採用の促進にも大いに役だつ。こうした社外との比較による目標設定は"ベンチマーキング"と呼ばれる。本来、この言葉は、土地の高度を比較する際に使用される測量術の専門用語である。

 1979年に米ゼロックス社がベンチマーキングを始めた時には、経営陣の目的は台当たりの製造原価を分析することであった。米ゼロックス社の生産部門スタッフは日本製PPCが安く売られていることに注目し、果たして日本製PPCの製造原価は、その販売価格にみあったものであるかどうか確認することにあった。担当スタッフは、富士ゼロックス社が製造した複写機も含めて日本製PPCの機能から部品までを徹底的に調査した。その結果、米国製製品の製造原価が非常に高いことがわかったのである。米ゼロックス社製造部はそれまでの予算決定の基準を捨てて、日本競合メーカーの生産原価をベースにした計画立案を行なうことを決定した。

 このベンチマーキング・プログラムの優れた成果により、米ゼロックス社のトップ・マネジメントは全社的にこれを採用するよう命じた。しかし、流通、管理、テクニカル・サービスなどのサポート部門は、適切な比較対象を社外に求めることが困難であり、彼らはまず社内における各地区の流通センターの労働生産性や運送コストなどの比較から始めた。次に、ベンチマーキング調査の対象を競合各社のやり方に目を向けた。物流部門に関していえば、運送、倉庫、在庫管理のやり方を競合メーカーのそれと比較した調査であった。

 競合メーカーを対象としたベンチマーキングには、さまざまな問題が含まれている。例えば、競争上あまり意味のない部分しか発見できないかもしれない。あるいはベンチマーキングで対象とした競合メーカーのパフォーマンス・レベルまで達することはできても、競合メーカーを破る戦略まで見出すことはできない。さらに、競合メーカーに関する情報収集はいうまでもなく困難である。結局、まったく異なる産業分野から学んだアイデアはそれを受け入れるのに対し社員の偏見は少なく、容易に受け入れる可能性が大きいということが判明した。こういったことを考えると、異業種の企業、つまり"非競合"(non-competitor)をベンチマーキングの対象とするのが最良のアプローチである。

 非競合に対する調査は、どんな産業界からでも、その機能における最良の業務遂行方法に関する情報を収集できる。こういった情報のなかには、自社の業界内では気づかなかった技術的進歩などについての情報も含まれる。例えば、当初食品業界に採用され、それ以後他業界まで大幅に普及したバーコード技術などである。こうして学んだ"やり方"の採用は自社が競争上優位の立場にたつことに役だつ。

 ベンチマーキングを企画する際、第2ステップは、その部門のアウトプットがなんであれ、こうした「何をベンチマークするか」を決定することである(売上高経費率、棚卸資産回転率、サービスのための訪問数、顧客満足度など)。これら調査の結果を分析したうえで改善を必要とする業務を特定化することが、次のステップである。

 米ゼロックス社の場合、当初、マネジャーはベンチマークの対象を原価の比較におく傾向があった。しかし、彼らがベンチマーキングの理解を深めていくにしたがって、原価より業務の仕方を理解することが、より重要であることがわかった。つまり、目標原価を達成するためには業務の改善が必要だからである。さらに、ベンチマーキングの使用が広がるにつれてベンチマーキングの対象分野を、原価の低減からサービスや顧客の満足度の向上といった、利益を産み出す要素へと拡大していった。

米ゼロックス社とL.L. ビーン社とのベンチマーキング調査

 ベンチマーキングの対象となる優秀な非競合会社をどうやって探すのか。容易に入手できる年次営業報告書などの出版物は効率的経営を行なっている会社の発見に役だつ。例えば、ROA、1人当たりの収益、棚卸資産回転率、一般管理販売費などの一般的に認められている財務評価法は優れた経営を行なっている会社を見つけ出すことに役だつのである。

 米ゼロックス社では特定業務分野における優良パフォーマンスを示す会社を選ぶため、その分野の専門雑誌、コンサルタント、会社のセールスポイントが掲載される年次営業報告書などの企業広報物、またセミナーや発表会などを参考にする。こういったソースに必ずといっていいほど同一の会社が登場するというパターンが観察された。

 非競合会社からはベンチマーキング調査への協力が得られやすい。同じ業務分野に属するプロフェッショナルたちが互いの情報交換を望むからである。自社の事業に自信をもっている彼らにとって、自社がどう比較されるのかは興味深いことである。実際に、非競合会社が米ゼロックス社との協同研究として調査費を分担したケースも少なくない。