-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
企業経営者のなかには、大学、病院、学校、美術館などの慈善団体の管財人や理事に就任する人がいるが、そうした人たちで就任当初から自分の基金募集の責任が、どの範囲にまで及んでいるのか完全に理解している人は、ほとんどいない。基金募集を成功させる方法や、ビジネス界や経営者としてのこれまでの経験がどう活かされるか、よく考えてみた人にいたっては、皆無に近い。
ボランティアのなかにも、基金募集は、体のいいもの乞いだと見ている人もいる。多数の人には必要悪としか映っていない。実際に携わってみると、ほとんどの人が情熱が湧き、充実感のある仕事だと気づいてくれるのは救いである。
基金募集には秘伝があるわけでもなければ科学でもない。基本を理解するのは難しいことではない。実業界で行なわれているマーケティングととてもよく似ているが、驚くほどのことではあるまい。
筆者はスタンフォード大学で開発部門の責任者に就任する以前、約25年間にわたって技術主導型産業の経営にもっぱら関与してきた。最初は業界にあって第一線の経営者であったし、その後は学究およびコンサルタントとして関与していた。ここでは皆さんになじみ深い慈善団体や大学の実態がハイテク企業なのだと説得しようとしているわけではない。営利企業が行なうマーケティングとの類似や対比で考えてゆくと、非営利事業の資金開発という事業の本質が見えてくるのではないか、ということを筆者の体験からお伝えしたいのである。
資金開発とハイテク企業のマーケティングとは類似点がきわめて多いので、そうした企業の経営者が日常当面する問題をいくつかでも検討してみると、数多くの教訓が得られる(どんな企業のマーケティングでも資金開発との類似性が見られるのはもちろんであるのに、筆者がここであえてハイテク企業での類似性を採り上げる理由は、1つには筆者にそうした企業での経験が多いことであり、またハイテク企業はかなり複雑な構成で、ちょうど非営利事業体とその後援者との関係に似ていることである)。
これと同様に、読者自身のマーケティングと経営における経験から、読者が理事会や委員会あるいは評議員会に名をつらねておられる慈善団体の基金募集活動について、いままでとは違った深い見方が得られるはずである。読者の経営に関する専門知識をもってすれば、有給職員に要求したり質問をあびせたりして、彼らに事業計画や活動を経営の用語を使って考えさせることができる。そうすれば、やがてはうまく使いこなせるようになるだろう。
ハイテクに求める価値群
資金開発、あるいは事業体としての発展(基金募集を体よく表現した名称である)と、ハイテク製品のマーケティングとの最も主要な類似点は、顧客の動機づけにある。出資してくれそうな人を顧客と考えることはめったにないが、こう考えると便利だ。ハイテク製品のマーケティングでも基金募集でも、顧客は数多くの微妙な動機に左右されている。
ハイテク企業の経営者は、顧客は先端技術にしか関心がないものと決め込みがちである。こうした経営者は製品の性能ばかりを強調するが、それは製品が先端技術的であればあるほど、ということは製品の話を聞いた顧客が思わず、「わーすごい」と叫ぶことが多いほど、売れること間違いなしと仮定しているからだ。
あとはマーケティングと販売さえあればやっていけると判断しているのだが、これは、おなじみの「客の心をもっと引きつける新製品を作り出せ」という誤信なのである。
慈善事業の資金開発活動で、これに類似するものは何だろうか。管財人、ボランティア、開発担当スタッフなどが、「自分たちのニーズがどんなに緊急なものか寄付を見込める人びとにわかってもらえさえすれば、寄付獲得は成功間違いなしなのだが」とつぶやくことが多い。このように基金募集係や開発スタッフは、事業体のニーズという内部に焦点を合わせてしまうが、これはちょうどハイテク企業の経営者が研究室で生み出された技術に目を向けがちなのと似ている。どちらもパズルの一片だけに目を奪われているのだ。技術上の仕様だけで製品のマーケティングに成功するものではないし、事業体の側のニーズをおしつけるだけで基金募集の成功が約束されるわけではない。



