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なぜマンビル・コーポレーションのトップレベルのエグゼクティブらが、アスベスト吸入で従業員が何人も死んでいるという証拠を、何十年にわたり隠しつづけることになったのだろうか。
コンチネンタル・イリノイ銀行のマネジャーたちを、同行の破産と名声失墜のみならず、何千人もの罪なき従業員の失業と、投資家の損害をもたらすこととなった一連の行動に追い込んだのは、いったい何だったろうか。
また、なぜE.F. ハットンのマネジャーたちは、2000回に及ぶ郵便・電報による詐欺行為の罰を認め、200万ドルの罰金を受け入れたうえ、同社が計画的にだました400の銀行の再建資金800万ドルを用意しなければならぬ破目に陥ったのであろうか。
それらの組織のみならず、公共・民間のいたるところで発生し、わが国の新聞の第1面をにぎわせるこうした不正行為を、われわれはどう説明したらいいだろうか。――タイム・カードをごまかした上役を告発した防衛受注企業の労働者とか、ニューヨーク市当局に食い込んだワイロとリベートの疑いとか、安全性に欠けたバース・コントロール器具を承知のうえで売った企業とか、スペース・シャトル、チャレンジャーの悲劇につながった意思決定プロセスとか……。
それぞれの話にはつねに微妙な違いがみられるものの、いずれの場合も、この世で最も昔からある問題、すなわち人間の振舞いや、日常のありふれたシチュエーションをめぐる人間の判断といった問題にあふれたことがらだけに、共通点も多いのである。それらの記事を読んでいると、ふだんは正直、知的で、思いやりのある人間が、いったいなぜ、かくも無神経、不正直で判断の狂った行動をなしうるのかと問わざるをえない。
わたしの意見では、その説明は次の4種の合理化に帰着するのであって、人びとは長年、問題のある行動をそれらにもとづいて正当化してきたのである。すなわち、1)当の行動は"本当は"不法でも不道徳でもないと信じること、2)それは個人ないしは企業の最良の利益であると信じること、3)けっして露見しないだろうと信じること、あるいは、4)それは企業の役に立つことであるから、企業はきっとそれを大目に見てくれるだろうと信じること――のいずれかである。これらの合理化を、次のいくつかのケースにてらして検討してみるならば、トラブルにつながるようなマネジャーの行動を、より効果的に規制しうる実際的ないくつかのルールを育むことができるはずである。――ただし、規制であって、排除はできないだろうが。というのも、企業不正行為は、下等なゴキブリのごとく、発生を抑えることはできても、けっして根絶やしにはできない疫病だというのが、冷厳な事実だからである。
3つのケース
ジョージ・ワシントン大学の社会学教授、アミタイ・エツィオーニ教授は最近、米国の最大手企業500社のうち約3分の2は、過去10年間のうちに程度の差こそあれ、何らかの形の不法行為に巻き込まれた経験を有する、との結論に達した。われわれは、次の3つの企業のケースを検討することによって、何人かの人の生活を破滅させ、組織を破壊し、その企業全体に汚名を着せるばかりでなく、罪なき多くの人びとにまで現実的で長く尾を引く害を与えるような不正行為のルーツを見極めることができるであろう。以下の3つのケースは、いずれもおなじみのものであろう。わたしはそれらを、マネジャーたちがあらゆる種類の日常的ビジネスのなかで直面するような諸問題の見本として、ここに出しておくのである。
マンビル・コーポレーションの場合
数年前、マンビル(当時はジョン・マンビル)は、米国の巨大企業の1つに数えられるほどの堅実な企業であった。ところが今日、マンビルは、その株式の80%を、同社の以前の主要製品の1つ、アスベストに関する責任で同社を告訴、ないしは告訴計画中の人たちを代表するトラスト(被信託団体)に譲渡する手続き中である。事実上、同社全体が企業倫理上の問題のために決定的打撃をこうむることとなってしまったのだ。
今から40年以上もまえに、アスベストの吸入は、肺の衰弱性疾病である石綿沈着症(=石綿症)とならんで、肺ガンおよび肺の致命傷である中皮腫の原因となり得るという情報が、マンビルの医療部門に――そして、そこを経由して同社のトップ・エグゼクティブらの耳に入りはじめていたのである。ところが同社のマネジャーたちは、調査研究を抑え込んでしまった。そればかりか、政策上、彼らは、被害を受けた従業員に関する情報を隠蔽するという意思決定を明らかに下しているのである。同社の医療スタッフも、われわれには想像の域を出ないいくつかの理由から、隠蔽工作に加担した。
その動機の1つは金であった。とりわけぞっとするような証言のなかで、ある弁護士は、40年まえ、従業員の肺X線検査結果を隠すという同社の政策をめぐって、自分が重役会とどれほど対立したかを回想している。その弁護士は、「従業員はくたばって死ぬまで働かせておけばよい、と皆さんはわたしにいいたいのか」と質問した。それに対する彼らの答えは、こうであった。「そのとおり、そのほうがうんと金が助かるからね」。



