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企業の重役で、不安定な為替相場が自社の有する外貨建て資産と負債のドル換算価額に影響を及ぼすという事実を理解している人は多い。しかしながら、これら重役のうちで、為替相場が営業利益に深刻な影響を及ぼしうることを理解しているものは、わりに少ない。さらにまた、この営業上の危険を監視する責任を業務担当の経営者に課している企業は、さらに少ない。それにもかかわらず、現実にこの営業上の危険はしばしば年々の営業利益を大幅に変動させる要因になっており、多くの意思決定は、この営業上の危険をいかによく理解しているかにかかっているのである。
長期的にみると、戦略および世界的規模の製品計画を設定する際に、業務担当経営者は、こういった営業上の危険を考慮すべきである。短期的にみると、営業上の危険を理解していれば、業務上の意思決定は相当程度まで改善されることになろう。さらに、為替相場が経営成績に及ぼす影響は経営者の管理範囲を超えるので、為替相場が経営成績に及ぼす影響を考慮した後に、事業単位とその経営者の評価を行なうべきである。
営業上の危険は、最近いくつかの理由によって重要性を増しつつある。為替相場は、国際経済におけるアメリカ経済の発展期よりも、管理変動相場制の世界のほうが、より不安定である。各国は多様な金融政策をいやましに採用するようになり、同時に市場は、ますます世界的になってきている。アメリカは、もはや主要産業で世界市場の70%から80%のシェアを持つといったことはなくなり、ヨーロッパと日本とで市場を共有するようになってきている。
このような変化により、為替相場は世界的競争産業における企業――自社製品を輸出しているか輸出していないかにかかわらず――の営業利益に影響を及ぼす。実際、為替相場の変動は、外国での営業活動とか輸出を行なっていなくても、国内市場で外国企業との重大な競争に直面している企業の営業利益に、しばしば重大な影響を及ぼす。
長期と短期の為替相場の変動を理解すれば、為替相場が営業利益にいかなる影響を及ぼすかがわかるようになる。長期的にみると、ドル-外国通貨間の名目為替相場の変動は、売買される商品の価格に関するアメリカと外国の物価上昇率の相違と、ほぼ等しくなる傾向にある。かりに、同一期間においてドイツの物価上昇率よりもアメリカの物価上昇率が4%高くなれば、ドイツマルクはドルに対して約4%強くなる傾向にある。
この為替相場と物価水準との長期的関係――通常、購買力平価(PPP)と呼ばれている――は、物価上昇率が異なるために生じるであろう2国間の競争力の変化が、それに対応する為替相場の変動によって相殺される傾向にあることを示唆している。しかしながら、6ヵ月から数年間といった短期で見ると、為替相場は不安定であり、同一市場に販売しているけれども異なる国から材料と労働を調達している企業の競争力に大きな影響を及ぼす。
相対的競争力のこの短期的な変化は、2国間における物価上昇率の相違によって相殺されることのない名目為替相場の変動によって生じる。かりに、ドイツマルクがドルに対して4%強くなり、ドイツにおける物価上昇率が1%であるとすると、主にドイツ国内の生産者によって供給されているドイツ市場に対して輸出を行なうアメリカ企業では、ドル建ての販売価格が5%上昇する。
しかしながら、かりに、アメリカにおける物価上昇率がドイツの物価上昇率よりも4%ないし3%高いとすると、そのアメリカ企業の営業利益は、ほんの1%増加するにすぎない。
この例は、相対的競争力の変化が、名目為替相場――1ドルで得られるドイツマルクの数――の変動に依存するのではなく、実質為替相場――それは名目為替相場の変動から2国間の物価上昇率の相違を差し引いたもの――の変動に依存することを示している。それゆえ、ドイツへ輸出するアメリカ企業のケースでは、名目為替相場の変動は4%であったにしても、実質為替相場の変動(したがって、それは営業利益に影響を及ぼす)は、わずか1%にすぎないのである。
実質為替相場の変動は購買力平価からの乖離を反映しているので、長期間にわたって累積した実質為替相場の変動は、名目為替相場の変動よりも小さくなる傾向にある。



