マーケティングでは従来から、顧客に接近することが大切だといわれてきた。だが、実際のマーケティングにおいて、顧客にどれくらい接近できるのだろうか。その関係は、どれくらい永続するのだろうか。またどのような状況があれば、顧客と個々の売り手と強い絆で結ばれるのだろうか。反対に、顧客は、どういうときに強い絆をきらって、いわば多くのさまざまな売り手に向かうのだろうか。

 生産財マーケティングにおける顧客と販売業者との関係を明確にするための調査結果報告という形で、著者は上記のような疑問をはじめ、顧客――売り手行動のパターンに関するその他の疑問に対して答えている。

 著者のいう顧客との永続的な関係の構築と維持のためには、まず長年にわたり一貫して万事そつなくやることが必要だ。それには売り手の側で、顧客の差しせまった需要のみならず、将来の需要にも応じられるように、自社の資源や設備を内部調整することが要求されるのである。

 情景1:役員会は午後5時半に終了し、役員はいずれも自分たちの決定に満足して散っていった。この会社、スペリオア・シッピング・サービス社は、大手の業務用ユーザーのためのトラック輸送業者だったが、顧客からは時間の正確さと荷扱いの慎重さが評価されていた。

 トラック輸送と関連業界に対する規制の緩和に応ずるため、スペリオア社の幹部はもっと強力なマーケティング志向が当社には必要だと信じていた。そして顧客との間に、永続的でかつ有利な関係を築き、それを維持したいと考えた。これこそ"顧客に接近すること"にほかならないと、同社の幹部は信じていたのである。

 以前に開かれた役員会で、幹部たちはコンピュータ業界で名を知られたマーケティング専門家を、販売―マーケティング・マネジャーとして引き抜くことに決めていた。スペリオア社社長の言によれば、そのような人物ならば、特に高い質とサービスによって有名な当社には、うってつけの態度や価値観をもっているはずだというのだった。

 そこで社長と管理担当副社長が、有望な候補者の人選に当たった。白羽の矢が立ったのは、すばらしい記録を達成したセールス幹部、デール・スペンサーだった。この重役会は、スペリオア社の社長が、これならばスペンサーも文句あるまいと考えた採用条件について説明するために開かれたのである。

 情景2(1ヵ月後):デール・スペンサーは、スペリオア・シッピング社販売担当副社長の座にあった。交渉は順調に進み、スペンサーは満足だった。スペンサーのやるべきことについて、スペリオア社の社長と、完全な同意に達したのである。

 スペンサーはこれまで、常に粘り強く努力して顧客との関係を作ることに成功してきた。ときに販売活動が長びいて、スペンサーと他のサポート要員は見込み客をくどき落とすのに、長時間を要することもあった。しかし最後には、おおかたの注文をとることに成功したし、その後の関係も密接で、双方にとって大いに満足できるものだったのである。

 スペリオア社の管理職たちは、これと同じような顧客との絆を求めていた。そして顧客の輸送に対するニーズを、時間と労力をかけて研究しようと計画していた。