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現在、第7次中期事業計画(2025〜2028年度)を遂行中のYKKが掲げる新ビジョンが、「ONE YKK」だ。「グローバル×ローカル供給網最適化」「グローバルで繋がる業務基盤構築」など7つの重点項目を設定し、70の国・地域に広がるバリューチェーンを、デジタルを基盤として一枚岩にするプロジェクトに取り組む。その変革に伴走しているのがRidgelinezだ。この挑戦には、YKK一社に留まらず、日本の製造業の競争力を再定義する大きな可能性が秘められている。
デジタルではなく「理念」が人を動かす
「『ONE YKK』とは、システムや業務プロセスだけでなく、社員の意識も含め、グローバルでの一体感を高めていくことです」。YKK社長の松嶋耕一氏はそう語る。
松嶋氏がこのビジョンのゴールとして見据えるのは、YKKの企業精神である「善の巡環」だ。創業者・吉田忠雄氏が遺した言葉「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」は、90年余りにわたって経営を貫く原則であり続けてきた。「他人」とはすなわち、顧客であり、取引先であり、社会全体を指す。松嶋氏は、理念の本質を守りつつも、その実現方法は時代に合わせて変革しなくてはならないと強調する。「創業者はその変革こそが、『働く喜び』だと言っています。そうした喜びを誰もが感じられる会社にしていきたい」
同社がいま取り組む「デジタル推進プロジェクト」は、「善の巡環」という企業精神を現代の文脈で組織に実装し直す試みにほかならない。
一方で松嶋氏は、「デジタルの罠」に陥ってはならないというメッセージを社内に向けて発している。「デジタルを活用することが目的ではなく、最終ゴールは『他者』への価値提供です」。顧客への「適時・適材(適在)・適量」での商品供給、あるいは地球環境や社会の持続可能性を高めること。変革の到達点は、あくまでもそうした「他者の利益」だ。
「他者」には、一人ひとりの社員も含まれる。「社員たちの仕事がどうあるべきかという理想の姿があって、それがデジタル変革にひもづいていること、そして一人ひとりに恩恵があるという姿を見せないと、社員は能動的に動けません」。変革への抵抗は、変革によって自分がどんな価値を生み出せるようになるのか、その姿が見えないがゆえに生じる。
YKKは、2024年に創業90年を迎えた。「創業100年に向けてどうありたいかを、いま経営メンバーで議論しています。端的に言えば、『善の巡環』の精神を持ちつつ、成長し続けている姿です。しかし、これまでと同じように煩雑な業務を残したままで、その姿が実現できるとは思っていません」と松嶋氏は語る。
創業者から直接薫陶を受けていない世代として初の社長に就任した松嶋氏にとって、「ONE YKK」の推進は企業変革であると同時に、理念継承の実践でもある。