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アメリカ企業がR&Dに巨額の資金を投じている一方で、開発した技術の固有の価値と、これを効果的に実用に供する能力との間に根深い困難なギャップが依然として存在する。世界的に競争が厳しさを増している現在、技術の約束しているものとその純粋な果実との距離の問題は、とりわけ重大な関心事となる。
このギャップを埋める任を務める管理者の困難な立場についての長年の研究をもとに、著者たちは、新技術の実用化を担当する管理者が克服すべき半ダースあまりの課題をあげている。すなわち、彼らの避けがたい二重の役割、対象となる社内市場の多様性、変化に対して当然生じる抵抗、推進活動の正しい水準、実用化サイトの選択、あるいは1人の人間が全体の責任をとる必要性などである。
技術変化を組織に導入・定着させることは、経営幹部にとっては手慣れたプロジェクト管理などとは異なったいくつかの経営課題に取り組むことを意味する。ところが技術的革新を定常的な利用に移行させる責任者が、イノベーションの具体的実用化よりも、むしろ開発の面で、はるかに教育や経験に富んでいる場合が少なくない。
本稿で筆者たちは、企業が新技術を効率的に導入するために管理者が克服すべきいくつかの課題を分析し、また管理者がこの種の困難な問題に取り組む際にとり得る戦略をあげる。筆者たちがとり上げる例はすべてコンピュータ関連のものであり、またいずれも大手メーカーの経験に基づくものではあるが、ここで提起する問題点と提案する戦略はすべて、中小企業やサービス事業も含めて技術革新の恩恵を受ける事実上すべての組織に適用できるものである。
筆者たちの研究結果は、20社以上の多国籍大企業に加えてゼネラル・エレクトリック社の約70の組織に対する調査とコンサルティングの経験を総合したものである。また、われわれは社内開発の技術に対象を絞ったが、先端的な生産機械のベンダーたちが彼らの販売するシステムの設置運転を支援する過程で経験しているように、新技術はその源泉がいずれにあろうと、いくつかの明確な責務を管理者に提起するものである。
二重の役割
技術変化の管理に携わる者は、技術の開発者とその実行者の2つの役割を同時に果たすことを要求されることが少なくない。一般的な形でいえば、ある1つの部門が技術を開発し、しかる後にこれを技術的知識はともかく自己の領域での利用法については、はるかに通暁しているユーザーに引き渡すことになる。ところが実際には、開発が進展し開発グループが引渡しを希望する時点になっても、ユーザー部門はその技術に責任を持つ意志も、時にはその能力もないといった状況がしばしば生じる。実用化に携わる責任者は、開発部門、ユーザー部門、あるいはその中間的な組織のいずれに属していようとを問わず、ほとんど具体化していないものについて、何らかのハンドオフ(中継)手順を編み出す必要に迫られる。いってみればバトンタッチの前にそれぞれの走者が、しばらく並行して走らねばならないようなものである。実用化責任者は、開発者、利用者の双方の観点とニーズを集約していかねばならないのである。
こうした役割を達成する最も容易な方法は、おそらく実用化業務を一種の内部的なマーケティング業務――販売業務ではなく――と考えることであろう。この区別は重要である。というのは販売は最終製品からスタートするのに対して、マーケティングはユーザーのニーズと選好度の調査から始まるからである。マーケティング幹部は、競合する全製品との関連で自社製品をどうポジショニングするかに苦慮するとともに、製品の利用に最適な流通チャネルや各種の体制を整備することに意を用いる。
マーケティングの観点から考えることにより実用化責任者は以下の点でユーザーの参加を積極的に促すことができる。すなわち1)利用者のニーズとその製品との適合性についての早期の判断とその改善、2)技術革新の受け容れに関するユーザー側部門での準備、そして3)技術革新の"所有権"のユーザーへの移転である。本稿では以下の項でまず前二者を論じ、第3については後にとりあげることにする。
マーケティングの視点
新技術の設計段階からユーザーを参加させることによってユーザーの満足度が著しく高められることは広く知られているが、ユーザーの参加の適切な程度、タイミング、およびタイプは企業によって大きく異なる。例えばある電子事務機器会社のソフトウェア開発者たちは、アプリケーション・ソフトの戦略的に重要な部分に関して、プログラムがまだプロトタイプの段階から開発者と協力して作業するユーザーの設計グループを組織した。ユーザー予定者はプログラム開発者と同じコンピュータを使ってソフトウェアを試行してみることができた。これにより極めて緊密な連絡関係が生み出され、ユーザーはその要望や問題点をその日のうちに開発者にフィードバックすることが可能となった。これほどの即時性は例外に属するとしても、管理者としては潜在ユーザーから、ほとんどいつの場合も製品設計を改善する何らかの情報を得ることができるものである。
マーケティングの姿勢は、組織が新技術を受容する態勢を整えるうえでも役立つ。こうした準備の範囲や重要性を過小評価したために、実用化努力が失敗に帰してしまうことも少なくない。事実、数多くの組織を見ると、そのイノベーションが技術的に優れ、戦略的に重要でありさえすれば、必ず受け容れられると信じている管理者があまりに多い。このため彼らは技術の購入や開発には潤沢な資源を投入する反面、その実用化にはごくわずかな関心しか払わない。しかし経験的にいえば、実用化を成功させるためにはプロジェクトの初期の段階での開発者による大規模な投資だけでなく、ユーザー部門の資源に対しても一定水準の投資を継続的に行なうことが必要なのである。



