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拡散理論から見える「バズり」のメカニズム
今回も経営学の範疇を超えた「未来の経営理論」として、前回に続き、ネットワークサイエンスの理論を解説する。
前回述べた通り、ネットワークサイエンスは、従来の経営学・社会学で扱われてきたソーシャルネットワーク理論とは異なる。ネットワークサイエンスは、ネットワークの「部分」ではなく、「全体」の構造を俯瞰し、そのメカニズムを理解しようとする点に特徴がある。すなわち「SNS上のつながりすべて」「ある国のすべての人のつながり」「航空ネットワークのすべての結節」など、ネットワーク全体の構造特性に関心を向けるのだ。同分野は、統計物理学や計算社会科学などを横断する学際領域として、世界的に発展してきている。
ネットワークサイエンスには、ネットワーク全体の構造特性を数値化して特徴づける、いくつかの「特徴量」がある。前回は、最も重要な特徴量である「次数分布」について解説した。あらゆるネットワークは次数分布で表現でき、その分布は特定の確率密度関数に従う傾向がある。この性質をもとにネットワーク全体の構造を説明することが、ネットワークサイエンスの根幹の一つだ。なかでも代表的な理論として、ランダムネットワーク理論(ネットワークの次数分布がポアソン分布に従う)や、スケールフリー理論(パワー・ロー分布に従う)などを取り上げた。
今回の序盤では、次数分布以外の重要なネットワークの特徴量を紹介する。そのうえで、前回取り上げた理論に加え、もう一つの重要な視点であるスモールワールド・ネットワーク理論について解説する。
さらに、中盤以降では、「ネットワークの拡散理論」を解説する。前回のネットワーク理論は、あくまでネットワークの構造に焦点を当てた。しかし、ビジネスの観点から見れば、より実務に重要なのは「なぜある事象(例:SNSの情報、新製品の噂、ヒット商品の購入、イノベーションの採用など)は広範囲に一気に普及し、別の事象は普及しないのか」ということのはずだ。現代風に言えば、「なぜネットワーク上でバズるものと、バズらないものがあるのか」ということだ。この問いを説明しうるのが、拡散理論である。
そして、ここが今回の核心だが、この問いを考えるうえでは、「拡散理論で説明されるメカニズム」と、「ネットワーク構造」の掛け合わせが、極めて重要になるのだ。
ここで、留意点を2つ述べたい。第1に、本稿ではネットワーク上で何らかの事象が広がることを、「拡散」「感染」「伝播」「普及」など、さまざまな用語で表現する。これらはいずれも、ほぼ同じ意味である。第2に、説明の必要上、本稿では数式による表記を用いることがある。できるだけ自然言語(日本語)を使った平易で直感的な説明を行うので、数学が苦手な方も気後れせずに、お読みいただきたい。
では前回に続き、ネットワーク全体を理解するうえで重要な特徴量を解説しよう。
平均次数、ネットワークの距離、クラスタリング係数
平均次数
ネットワーク構造を理解するうえで重要なのが「次数」である。次数とは、ネットワーク上のノード(例:人脈ネットワークにおける人、電力ネットワークにおける発電所・電柱など)が、どれだけの数のリンク(つながり)を持つかを示す。具体的には、「一人が持つ人脈の数」「一つの発電所が接続している電線の数」「一つの空港に発着する航空路線の数」などがこれに該当する。
ネットワーク全体には多数のノードがあり、各ノードがそれぞれの次数を持っている。その平均を「平均次数」と呼ぶ。一般にこれを〈k〉と表記することが多いので、本稿でもこの表記を用いる。



