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地域社会の企業経営者や政府指導者はともに、ハイテク産業の発展によって多大の恩恵を被るものと考えられる。経営者の立場からすると、バイタリティーにあふれるハイテク企業に近接しているおかげで先端技術をいち早くしかも容易に導入できる。その結果、コストの削減ができると同時に、生産性と品質の向上を図れる。さらに、新分野のビジネスチャンスも開拓できよう。いっぽう政府当局者にとっては、進展するハイテク企業集団は、地域の長期的経済力の増強につながるというメリットを期待できる。
しかし、第2のシリコンバレーの育成に成功するためには、正しい戦略を選ばなければならない。戦略の落とし穴は大別すると3つある。第1は補助金政策でハイテク産業を誘致する。第2は、大学や研究機関に依存しすぎること。第3は、政府にハイテク産業のチャンピオンを選ばせることなどがあげられる。
効果的な戦略は、地域の現存の資源と能力に適したものでなければならない。しかしすべての健全なアプローチには次のような共通の要因がいくつかある。政府・民間指導者による長期的コミットメント、地域企業の重視、新事業育成のための発注契約、大学と企業との提携、政府の二次的支援。このようなアプローチこそ、ハイテク産業の保育器の役を果たし、企業間をリンクし、研究開発のバイタリティーを生み出し、そして自立できるハイテク企業集団を支える地域的ベンチャー・キャピタリストを育成する道ではなかろうか。
最近の傾向として、官民ともにハイテク産業の育成にますます力を注いでいる。一般に政府指導者は、ハイテク産業の振興を経済開発戦略の最重点策とみなしている。そこで地域社会の企業経営者にしばしば呼びかけて、その信頼性、手腕、人脈などの影響力を借りて、企業家を誘致しようとはかっている。
しかし、これまでの経験によると、このような努力は不成功に終わるケースが多く、ときには誤った方向に進むことさえある。多額の資金を投入し、さまざまな方策を講じているにもかかわらず、シリコンバレーのような成功をおさめた地域はほとんどないのが現状である。本稿は、ハイテク企業集団の正しい育成方法について、さまざまな角度から核心を衝く提言を行なっている。
まず第1に、ハイテクは経済成長への世界共通の万能薬ではないということを忘れてはならない。高度成長を遂げている産業に占めるハイテク産業の割合は3分の1程度にすぎないのだ。さらに、ハイテク産業で名高いマサチューセッツ州の場合でも、州全体の雇用に占めるハイテクのシェアは12%にとどまっている。このような事情はあるものの、政府と民間企業が協力してハイテク産業の育成を図ることは、次のような健全かつ現実的な理由から望ましいものといえよう。地域社会にとっては、急激に進展する技術革新の時代にあって、それは遠い未来まで永続できる産業ベースとなろう。また、産業界にとっては、経済的に強力な地域社会をつくり、参加者のパフォーマンスを増進し、イノベーションを促進し、将来のチャンスを生み出すために、ハイテク企業集団は中心的な役割を果たすこととなろう。
なぜ経営者はハイテク志向なのか
企業経営者は伝統的に、地域経済の開発に参画してきた。その動機はいくつか考えられる。第1に、そうすることが企業の社会的責任であると一部の人びとは考える。また、自分の会社は地域社会の経済開発を推進するための特殊な専門技能を持っていると、多数の経営者は自負している。いずれにせよ、多くの場合、企業の私利私欲が地域経済の開発と網の目のようにからみ合っていることがわかる。ちなみに、銀行、不動産ディベロッパー、公益会社など地域経済にサービスを提供する企業は一般的に、地域経済の恩恵に浴する立場にある。
しかし、地域市場に必ずしも依存しない製造会社が、なぜその地域のハイテク産業化に関心を持つのであろうか。それは、ハイテク産業に近接していることが、次の2つの重要な戦略的理由で、自社に有利に働くからである。
1. ハイテク産業が近くにあるということで、最先端技術の導入が促進される。テクノロジーの拡散という問題は、依然として地域的な現象なのだ。人材の募集、コンサルティング・サービスの利用をはじめ、エンジニア、科学者、経営者間の非公式な交流を通じて、テクノロジーの移動が促進される。さらに最先端技術を持つ地域のサプライヤーや下請業者と取引きすることによって、競争力を増強できるというメリットがある。その地域にハイテク産業が存在することで、新技術の開発への関心が高まり、コストの削減や生産性の向上、ひいては製品の品質向上にも寄与することとなる。最後に、シリコンバレーのようなハイテク産業が近くにあるということで、経営者は高いコストを支払わずに、直接情報を手に入れることができる。
2. ハイテク産業との地理的近接による第2の利点は、自社の多角化戦略に決定的な役割を演じることのできる多数の先端技術企業と、密接な関係を保てることだ。急成長をしているが資本の乏しいハイテク企業のなかに、買収候補者がひしめいている。テクノロジー分野のバイタリティーあふれる企業家は、企業内ベンチャー・ビジネスのモデルを経営者に数多く提供してくれる。さらに、地理的条件のおかげで、自社の活動範囲を越えた分野での戦略的チャンスを探求することによって、新興ハイテク企業群との合弁事業への道が容易に開かれよう。合弁事業では、地理的に近いということは、経営管理の改善に役立つばかりでなく、相互作用を促進し、その結果、テクノロジーの移転がいっそう盛んになる。



