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一般的に、次のような状況がよく観察される。すなわち、すぐれた計画が実施段階で挫折してしまう。生産性向上によって実現する利益がコスト増加分で食われてしまう。欠勤率が上昇する。自分の担当している職務に誇りや喜びを感じていない無感動の労働者が、すぐれた変革や品質管理向上の方法をつぶしてしまう、といった状況である。経営者にとってこのような状況は、方向舵に連結されていない舵を懸命にまわしている、あわれな船長を思い浮かべることとなろう。どんなにすぐれた意思決定をしても組織の下部で実施されないという苦悩である。
しかし、最近になって、この状況に変化が見えはじめている。すなわち、管理者たちは、これらの状況を改善していくことに責任を持とうとしはじめている。彼らが育ってきた伝統的な職務管理から抜け出ようとしはじめている。管理者たちは、従業員がもっとも意欲的に仕事に取り組み、創造性を発揮するのは、「上司から厳しく管理され、決まりきった仕事を与えられ、人間が生産に必要な機械のごとく扱われる」ときではなく、「広範な責任をまかせられ、意見を求められ、自らの職務に誇りを感じることができる状況におかれた」ときである、ということを理解しはじめている。すなわち、従業員からのコミットメント(自律的に職務に取り組んでいく意欲)を引き出し、さらに彼らが成長していくことを助ける環境を作ってあげることによって、従業員にとっても、企業にとっても明確な利益が生じてくることが確信されはじめている。
著者は、人的資源の管理には2つの相反する方法が存在するが、旧来の方法から新しい方法へ移行する際には、いくつかの問題にぶつかると指摘する。
社会的変化の規模が大きい場合には、その変化のまっただなかに身をおいていると、その変化を認識することが難しい。今日のアメリカの産業においては、長い間につちかわれた伝統的管理法から、新しい労働の組織化と管理の方法へ移行していくという明確な変化が進行している。態度上、あるいは行動上の変化は、企業ごとに異なった形で進んでいる。しかし、その大きな流れ、総合的な形態は、もしどこをどのように観察すべきかがわかっていれば、かなり明確に認識することができる。
例えば、アメリカのある大企業の化学製品事業部の2つの工場に見られる大きな差を観察してみよう。この2つの工場は、同一種類の技術を用いて同種の製品を生産しているぐらいが数少ない共通点であり、そのほかは全く様子が違っている。
まず第1の工場は、製品または製品ラインの区分ごとにビジネスが組まれている。従業員は、10~15人の職務チームに分けられ、それぞれのチームは担当する課業の遂行に集団的に責任を負っていく自律的管理集団を形成している。チーム内の各メンバーはチームの担当する職務のすべてまたは職務の多くの部分を遂行できるように訓練されており、その賃金はどのくらい多くの職務を遂行できる能力を持つかによって定められている。これらのチームの従業員は、不景気がやってきても、できる限り長期間にわたり雇用が継続されるという保障を経営から与えられている。また、すべての従業員は、マーケットシェア、生産コスト、生産コストのビジネスへの影響といった諸問題について、経営からきちんと説明を受けている。
この工場は、予想にたがわずビジネス上の業績がもっとも高いだけでなく、従業員の満足度、出勤率、定着率、事故率といった各分野でもすぐれた成績を示している。従業員が問題の発見や解決に積極的に参加していることから、他の工場に比較して数少ない経営の階層、数少ない部課でビジネスをこなしている。また、この工場からは、他の工場や事業部の製造スタッフ部門へ数多くの経営の後継者を輩出している。
第2の工場においては、個々の従業員は守備範囲の職務の遂行に責任を負うが、その職務に定められた遂行基準の最低線をこなすことが要求されている。仲間からの圧力があるために、新入社員は最低水準を上まわって生産することは許されず、また職務の要求するレベルを超えて創造性を発揮することも歓迎されない。監督者も、日々の仕事を管理し、業績を監督することに忙しく、また従業員が何とか平均の成績をあげてくれるよう監督することに時間をとられて、結局のところ最低基準を維持するにとどまり、それ以上を望むことは、とっくにあきらめている。さらに監督者もその部下たちも、生産管理エンジニアリング部(この部は工場のトップから生産プロセスを改善するように強く圧力をかけられている)が、生産基準を向上させるために新しい方法を導入しようとする動きに抵抗を示し続けている。
経営側は最近、無断欠勤が多く業績も平均以下の従業員に対して、極めて厳しい管理法を導入していこうというキャンペーンをはじめている。これを裏返すと、従業員がやる気をなくしており、経営に対しても信頼感を持っていない現状を示唆している。絶え間なく提出される従業員からの苦情、工場における就業規則違反の連続、上司いじめ、無断で職場を離脱、サボタージュといった状況が顕在しているために、工場としての生産および品質管理の目標を達成することができずにいる。また、事業部のスタッフも上記の諸問題の解決に忙殺されてしまっている。労働組合との関係においても、賃金や労働条件に関して絶え間ない交渉が続き、経営からのコントロールに関していつも衝突が続いている。
高い使命感を持つ経営陣は、第2の工場で起こっているような状況を決して歓迎しないだろう。とはいえ上記の諸問題の本当の原因が何かを解明し、その原因を除去していくことは決して容易なことではない。過去から続けてきた行動様式には、それ自体に慣性が備わってしまっている。なおかつ、悪しき伝統を是正していこうとする努力はアメリカ全土の産業界で顕著になってきている。また、この努力によって、約一世紀前に起こった大量生産方式が産業関係に与えた革新と同程度のインパクトをもつ革新が、実現してくるかもしれない。これらの変化を理解しようと努力する管理者には今後どんな挑戦が待ち受けているのかが、わかってくる。この変革によって実現してくる利益は莫大である。



