原価計算の考え方は単純なものであるが、これは多目的に使える経営手法ではない。ある種の企業では綿密な原価計算システムが望ましいということもあるだろうが、それを設計し、導入し、運営していく経費は莫大なものになる。一方、詳細な原価情報が簡単に入手できるような企業では、原価計算システムなど、ほとんど何の価値もないだろう。

 多くの経営者は、原価計算と企業体制との間の関係が理解できていないため、自社の生産体制に適合しないシステムに何十万ドルという経費をつぎこんでいる。幸いにも新しいコンピュータ・システムのおかげで経営者の選択の幅は広がった。著者は、各企業の目的に合致し、それを使って適切な管理と効果的な分析ができる原価計算システムの選び方を示している。さらに、原価の管理と分析が、その企業にとって不可欠になるのはどういう状況かという点についても述べている。

「当社の原価計算システムは、芸術の域に達している。生産品目ごとの実際原価と標準原価がわかるから、その日のうちに2つの原価の差を製品別、従業員別、機械別に算出できる。このデータを使って週単位、ときには日単位で価格だての変更を行なっている。当社の戦略は、この原価計算システムにもとづいて決められる」(製造業A社の社長)。

「当社は7年間で4人もコントローラーを変えてきた。また3人のコンサルタントが原価計算システムの導入を図ったが、在庫品の評価額には依然として年間平均で10%の誤差がある。たまたまそうなったのでないなら、算出される原価はいつも真の原価と10%くいちがうと見なければならないのだろうか。原価計算なんて大きなむだ使いである。なぜそんなものに頭を悩ませているか、その理由が私にはわからない」(B社の社長)。

 2人の社長の話からすると、A社にはきわめて優秀なコントローラーがいるように思われるし、B社の社長はコントローラーとコンサルタントを非常に低く評価しているように思われる。しかし、これら架空の企業の現状を注意深く検討してみると、まったく別の結論が導き出されるはずである。というのはB社のコントローラーやコンサルタントがもしA社で仕事をしていたら、おそらく芸術の域にまで達する原価計算システムが誕生していたであろう。そして、A社のシステムを設計した人がB社で同じ仕事をしてシステムを作ったとしても、B社の社長は、それをとうてい受け入れなかったであろう。

 A社のように作業指示書を使った生産体制をとっている企業の経営者は原価計算の必要性を高く評価するが、B社のように複雑な組立て型生産体制をとっている企業の経営者は、原価計算に対して否定的な見方をする人が多い。

 ある特定の原価計算システムが企業で使えるかどうか、それが経営者にとって有用になるかどうかは数多くのさまざまな要因によって決まる。ある企業では、きめの細かい原価計算システムが望まれるであろうし、そのシステムを設計し、導入し、動かすための費用も少なくてすむだろう。また別の企業では、原価情報は、たしかに価値があるけれども、原価計算システムを運営するコストは非常に大きくなるかもしれない。さらに、詳細な原価情報など、ほとんど使い道がないという企業もあるだろう。

 残念なことに、生産方法や製品のタイプあるいは企業戦略や市場条件などを含む数多くの要因が、原価計算に影響を与えていることに気づいていない経営者が多い。何十万ドルという費用を投入して原価計算システムを導入したのに、それが生産体制に適合しないために実際には使われず、そのために導入にあたった管理者が、くびになったこともあった。

 こういうことはあっても、最近はコンピュータ・ソフトウェアを使って基本的な作業について正確で詳細な原価情報が出せるようになったので、原価計算システムの見直しを行なっている経営者が多くなってきた。

 さらに、総原価のなかに占める直接費の割合が小さくなる傾向があるため、原価のなかの固定費と変動費の区分と、固定費のよりきめ細かい配分方法が重要視されるようになってきた。原価が価格設定にとって欠くことができない要素になっているような製品では、特にこの傾向が強い。