業界で地位が確立している多くの企業が、いま以上に効果的なマーケティングを行なうためには、販促費や広告費をふやしたり、セールスマン組織を再編成する程度の微調整ですむ。しかし、ハイテク企業が強力なマーケティング企業になる道すじは、無からの出発であることが多い。

 このようなハイテク企業はふつうは研究開発の成果としての新技術を当面の武器として業界へ進出する。混乱し、急激に変化している競争環境のまっただ中にあっては、研究開発の重要性はいくら強調しても、強調しすぎることはない。しかし、競争環境に秩序が戻ってくるにつれて、ハイテク企業にとってはマーケティングがしだいに重要になってくる。

 ハイテク企業が新技術主導型から市場主導型へうまく転換するためには、研究開発活動とマーケティング活動を効果的に連携させるだけでよい、と著者は主張している。この連携は、特別委員会の設置から製品開発、製品テスト、調査、販売のあらゆるレベルへ役員が積極的に介入するというやり方まで、実にさまざまな方法で達成できる。

 どんなやり方で連携をはかるにしても、ハイテク企業は常にマーケティングと研究開発の間に敵対関係が生じないように、気を配っておかねばならない。

 ハイテク企業は競争相手の企業よりも、すぐれた研究開発能力を持っていることが多いにもかかわらず、その業績はあまりぱっとせず、ときにはまったく収益が得られないことさえある。このような企業には、いま以上のすぐれたマーケティング力が必要なのだろうか。いや必ずしもそうとはいえない。むしろ研究開発とマーケティングの連携こそが必要なのである。

 研究開発またはマーケティングのどちらかだけに卓越した力を持っていても、あるいは両方ともにすぐれた能力を持っていたとしても、それがただちに業績の向上につながるとは限らない。しかし、これら2つの業務を適切に結びつけている企業は、市場機会を効果的に予測し、分析し、利用することができる。本稿は、経営者に対し、これら2つの業務分野の連携強化のやり方を示そうとするものである。

ハイテクを浮き上がらせているもの

 ハイテク業界は移り変わりが激しい。しかし、これはごく控えめないい方で、実態は半導体、マイクロ・コンピュータ、ロボット機器といった分野で見られたように競争からの脱落が、ハイテク度の低い事業の場合よりも非常に頻繁に起こっている。ハイテク業界ではどんな革命的な変化も起こる可能性があるが、その例のいくつかを次に示す。

 5年前までは、ロボット機器の展示会はほんの小さな会場を使って、ほそぼそと行なわれていたものだった。しかし、その後は急激に成長し、今後も大きく発展すると見込まれているこの市場をめざして、何十社という企業が参入するまでになった。

 マイクロ・コンピュータのメーカーがマーケティング力とマーケティング感覚を武器にして競争を始めたのは、ごく最近になってからである。この業界での生き残り競争が激しくなる前は、技術力だけが成功のきめ手であった。技術上での専門能力と技術力についての名声だけで、テキサス・インスツルメンツ(TI)は、ここ数年、パソコンの分野に君臨してきたのである。しかしパソコン市場にもすぐれたマーケティング能力が不可欠になってくると、ほとんど技術力だけに頼って競争を展開してきた企業は、IBMやアップルといった企業に太刀打ちできなくなった。TIも、とうとう競争に負けて多額の赤字をかかえたままホーム・コンピュータ分野から撤退した(TIは数年前にもデジタル腕時計で、これと同じ不運にあっている)。現在、成長期にあるホーム・コンピュータ業界で、すでに脱落していった企業としては、パナソニック、トミー・コーポレーション、マテル、タイメックスがある。ハイテク業界ではこのような激しい変化があたり前なので、そこでの競争も他の事業分野での競争とは異質なものになっている。

 ハイテク市場をわかりやすくするための1つの方法は、ハイテク市場を供給サイド主導型市場と需要サイド主導型市場にわけて考えることである。供給サイド主導型市場では、技術革新が文字どおり市場と需要を創出する。この場合の市場開発におけるマーケティング戦略は経営者の企業家としての発想に依存するところが大きく、大ざっぱな市場情報と直感によって策定される。ソニーの盛田昭夫会長の次のような発言は、供給サイド・マーケティングの典型的な発想を示すものである。