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資本主義の根源は何世紀も昔までさかのぼれるが、その間、価格決定方法には、これといった決め手がなかった。ビジネスでいちばん肝心なことの1つである価格決定は、同時にまたいちばん理解されていないことの1つだ。本稿の著者によると、生産企業の多くは、習慣的に簡単な基準を土台にして反射的に価格を決定しているという。その基準とは、費用を支弁し、市場シェアを確保・維持し、競争相手と競うことである。
ところが最近、著者も指摘するように、価格政策について、もっと要領よく考えるほうが得だと気づく企業が現われた。価格戦略・戦術を深く理解することによって得る成果は莫大である。顧客、競争相手、業界経済についての的確な情報を綿密に検討し、しかるべき手法を選択的に用いることによって、"前向きの価格決定者"は、そうしなければ失われた巨万の富を掌中にできるのだ。
今日、もっとも高い利益をあげている生産企業は、必ずしも業界でいちばんの低費用企業ではない。このような企業では一般に、操業率や労働生産性は高いが、それが特に目立ってはいない。むしろ本当のすばらしさは、その価格決定戦略と戦術のうまさにある。明けても暮れても、このような企業は価格によって競争相手を出しぬくことばかり考えているのだ。競争入札となると、このような会社は、おめおめとは引き下がらない。競争相手の報復心をかきたてないで安い値段で、まとまった受注をとる術にたけているし、注文をふいにしたり顧客との長期的関係を損なわないで、高値をつけられる潮時をよく心得ているのだ。自社の属する業界の価格決定ダイナミックスや顧客の購入態度を深く理解することによって、このような企業は、価格決定政策を競争のための強力な武器に変えてしまったのである。
このような手法――うまい名前がないので、とりあえず前向き価格決定政策と呼んでおくが、――は、おおかた生産企業をいよいよ締めつけてくる強いプレッシャーのもとで生まれたものだ。照明器具からコンピュータのソフトウェアに至るまでのあらゆる業界を通じて、顧客は供給業者を上まわる力を獲得しつつある。競争はますます激化して、そのため特別品は否応なしに日用品化している。
コンピュータ情報システムのために、購入者は価格や性能を空前のたやすさと正確さで比較できるようになった。通信手段が改良され、テレビショッピングとコンピュータ援用販売が増加したため、多くの市場が生まれ、競争相手もふえるにいたった。このような環境にあって、価格決定政策を1つ間違えると、そのしっぺ返しは、ひどいものになろうとしている。
1例として、アメリカの中西部にある電気機械部品メーカーの場合を見てみよう。同社は、つい最近ひどい苦境に陥った。市場シェアはふえず、業界価格はじり貧の一途という状況で、同社の収益もひどく悪化し、しかもお先まっくらという状態だった。シェアをふやし、収益を回復しようとした同社のマーケティング担当副社長は、価格を平均7%引き下げることを命じた。ところが3週間もたたないうちに、この処置が主な競争相手に猛烈な値下げを断行させる引き金となり、やがて全面的な価格戦争が勃発した。一種の悪循環によって価格はたちまち下落し、やがて業界関係者がすべて頭を抱える事態となった。
こういう悪循環を引き起こした当人は知らなかったのだが、業界環境――高い固定費、高収益の業界という――は、一触即発で価格戦争が起こる状態だったのである。当時はかなりの余剰生産能力があり、主な企業は自社のシェアを守るために必死になっていたからである。自分の投じた一石が競争相手にどういう反応を引き起こすか予測できなかったために、こういう事態を招いたこの不運な重役は、皮肉なことに自分の会社は、このいわれのない攻撃の犠牲者だと考えていた。こういう誤解が生ずるのも、ある意味では、むりもなかった。業界に通用していた価格水準に関してこの会社が入手していた情報は、ことごとく競争相手へ流れた注文の落札価格から得たものだったからである。価格決定政策に関する限り、同社は秤の一方に全重量をかけるにも等しい選択をしていたのだった。
価格を軽率にいじると悲惨な結果を招きやすいので、たいていの管理者は慎重を期して、防衛的な価格政策を固守しようとする。つまり競争相手の動きを注目して、境界線すれすれにいる顧客の注文を失ったり、それとの関係を悪化させるかもしれないような価格操作は、できるだけ避けようとするのである。受動的な価格政策をとることによって、向うみずな価格先導者となる危険を回避するのだ。しかし長期的に見ると、これもまた、もうけ損なう――何百何千という注文をみすみす見逃すという大きな報いを受けているのかもしれないのである。
今日のもっと気のきいた生産企業のマーケティング担当者は、軽率な価格先導者になる危険をおかす必要もなければ、受動的な価格決定政策に伴なう機会損失を我慢する必要もないということに気づいている。最近、ポピュラーになってきた前向き価格決定技術のいくつかを用いることによって、積極的な企業は競争相手からの報復という危険を最小限に抑えながら、巧みな価格先導による利益を獲得することができるのである。
いかにすれば、そのような目的を達成できるのかを見るために、まず業界環境のなかで見すごされることの多い価格決定の側面を調べてみることとする。ついで、このような企業が実行している価格決定戦略・戦術の主な要因を検討し、効果的な価格決定のためのシステムを構築することに関して、いくつかの観察結果を示して、しめくくりとしたい。



